2012.1.6 ETを連想させる流れ 【空の中】
評価:3
■ヒトコト感想
「塩の街」と共に自衛隊三部作と呼ばれている本作。空中に存在する未知の生物に対する人間側の反応を描いた作品なのだが、SFとしてのワクワクドキドキ感が強い。人間が存在するよりも前にそこに存在していた謎の生物。謎の航空機事故が発端となり、人類にとんでもない危機がおとずれるのだが…。まず謎の生物の存在が奇妙でありながら、ペット的な愛らしさがある。人間を滅ぼしかねない力を持っていながら、高度な知能と理性的な判断で人間と和解しようとする。人類の危機とまではいかないが、人間たちの右往左往する姿というのは滑稽でしかない。作者の得意なツンデレ系の恋愛もあり、SFとしてのワクワク感もありで、飽きることのない作品だ。
■ストーリー
200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―
■感想
謎の航空機事故が発生し、そこから謎の生物の存在が明らかとなる。UFOを連想させるような未知なる存在と、人類の危機を思わせる流れ。そんな中、一人の少年が偶然出会った奇妙な生物によって、事態は大きく変化していく。はるか2万メートル上空に未知なる生物が存在するというワクワク感。人智を超えた存在であり、神のような存在ともいえる。政治的な側面や、軍事的利用の話など、作者の特徴がしっかりと表現されており、自衛隊三部作の名に恥じない作品となっている。
未知の生物と出合った少年。それはまるでETのように、少年と生物の心の交流を感じられる。大人たちの打算的な行動とはまったく別のベクトルで、未知の生物をペットのように扱う少年。人類の危機と、少年の行動とを少しづつ結び付けていき、複雑な状況を作り上げている。さらには、冒頭に登場した航空機事故を絡ませ、逃げ場のない状況を作り上げている。シンプルな流れではあるが、個人の感情と全体の利益や、人間の駆け引きなど、嫌な部分も見えてくる物語なのかもしれない。
作者の得意領域であるツンデレの恋愛模様は今回も健在だ。非常事態でありながら、相手を意識せずにはいられない関係。つれない態度を示しながら、心の奥底では相手のことが気になって仕方がない。あまりにわざとらしすぎて痒くなりそうな恋愛だが、それもまた良い。自衛隊という閉塞感あふれる組織の中で、女だてらにパイロットという職業を選んだ女が、どのようにして相手に心を溶かしていくのか。SFの中に思わず顔がにやけるような、ほのかな恋愛描写が含まれているのが印象的だ。
ベースがわりとよくあるSF風なだけに、差別化が難しい作品だ。
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