海の底  


 2012.4.9   潜水艦にたてこもる子どもたち 【海の底】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

自衛隊三部作の第三弾。突如あらわれた未知の生物との対決ということであれば「空の中」に近いのかもしれない。巨大な赤い甲殻類との戦い。頭の中で想像するのは、ザリガニが巨大化した姿だ。そんな巨大ザリガニに襲われる人間たちの恐怖。そして、なわばり意識と日本政府の事なかれ主義から、警察組織のみが甲殻類に対応しようとする。法律がすべての日本国内において、どのような事態であっても、そう簡単に自衛隊が出動できないことにもどかしさを感じてしまう。物語を盛り上げるのは、圧倒的不利な状況であっても、精一杯もちこたえようとする警察組織と、潜水艦に取り残された子供たちがどうなっていくのかという部分だ。作者の軍事的知識の豊富さにも圧倒されてしまう。

■ストーリー

4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている!」自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜか「歪んでいた」。一方、警察と自衛隊、米軍の駆け引きの中、機動隊は凄絶な戦いを強いられていく

■感想
自衛隊三部作といっても、本作では自衛隊は最後の最後で活躍するだけだ。ただ、潜水艦へ子供たちとたてこもった自衛官が主役というのであれば、自衛官はある意味活躍したのだろう。密閉された潜水艦の中で、子供といえどもそこには複雑な人間関係がある。不自由な空間であれば、なおさらストレスから歪みが生じてくる。様々な問題に対して、破天荒な自衛官二人が、右往左往する。巨大ザリガニの来襲よりもリアルであり、潜水艦での生活の辛さというのがよくあらわれている。

巨大ザリガニに襲われた横須賀では、どのようにして巨大ザリガニを殲滅するかがポイントとなる。もちろん、その過程ではおよそ官僚らしくない官僚が指揮をとり、幹部らしくないものが独断専行で危機を最小限に抑えている。このあたり、政府は保守的で事なかれ主義ではあるが、現場は独自の判断で動き、上を動かそうとする。出世競争には敗れるが、真の実力があり、行動力がある人物というのは読んでいて気持ちが良い。自己保身などいっさいなし。常に最も良い方法を模索し、上層部と対立するその男らしさもすばらしい。

最終的にはある程度予定調和的な流れとなる。しかし、潜水艦にたてこもった子供たちの人間関係が非常に複雑で、究極までに嫌な子供は嫌な奴という描き方をされている。しかし、それもすべてが終わったあとには、反動としてちょっと感動する物語にもなっている。作者お得意の体が痒くなるような恋愛は、本作に限り少しおとなし目かもしれない。どちらかといえば、日本が簡単には自衛隊を動かせないというもどかしさと、どんな状況でも法律に準拠しなければならないという、その辛さに心の中がざわめくような印象をもった。

自衛隊三部作の中では、一番恋愛要素が少ないかもしれない。




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