国家の崩壊  


 2013.5.11     作者の濃密な体験 【国家の崩壊】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ソ連が崩壊しロシアへと変化していく過程を、佐藤優が分析する。聞き手に疑問を投げかけられ、それに佐藤優が答える形なのだが、内容はいつものパターンだ。作者の作品を読んでいる人ならば、特別目新しい印象はない。ただ、ソ連でのちょっとした生活習慣やマフィアとの関係など、他作品では描かれていない部分もあるので、読めば新たな楽しみがあるだろう。

もともと作者の話は高度で、一度では理解できないレベルなので、本作を読むことで復習になってよい。一度ですべて理解するのは難しいので、作品は違えど作者の濃密な体験を読むのは、なんど読んでも色あせない楽しさというのがある。なんとなくだが、ピンポイントでこの時代のロシア情勢の知識が豊富になった気がする。

■ストーリー

1991年12月26日、ソ連崩壊。国は壊れる時、どんな音がするのだろう? 人はどのような姿をさらけだすのだろう? 日本はソ連の道を辿ることはないのか? 外交官として渦中にいた佐藤優に宮崎学が切り込む。

■感想
ソ連崩壊の瞬間というのは、まだ中学生だった自分にはほとんど印象にない。気づいたらソ連がロシアになっていた、という程度だ。そんな激動の瞬間を、すぐ近くで外交官として経験した作者が、聞き手の質問に答える形で真実を描く。

作者の「自壊する帝国」に内容的には近い。ただ、「自壊する帝国」の難しい内容をコンパクトにまとめた感じかもしれない。物語としての面白さでいえば断然「自壊する帝国」なのかもしれないが、ソ連崩壊の上辺をなぞるだけならば、本作を読めば十分だろう。「自壊する帝国」の復習的位置づけでも良いのかもしれない。

あおり文句にあるように、日本がソ連の道をたどるとは思えない。そこについては、作中で特に言及されていない。あるのは、ソ連崩壊から現在に至るまでの歴代の大統領たちの政策や、良い面悪い面を佐藤優目線で語っているというだけだ。

世間の評価とは少し異なっており、ノーベル平和賞を受賞したゴルバチョフが、ダメな大統領という扱いになっている。作者の評価は一貫しているので、特別意外性はないのだが、本作だけ読むと、凝り固まった考え方になりそうな気がした。

佐藤優の作品をそれなりに読んでいる人ならば、おなじみの内容かもしれない。ただ、ロシアでの生活の細かいエピソードというのは、本作で初めてでてきたものもあるので、非常に興味深い。外交官という立場上、ソ連内部のクーデーター派やそれを阻止する立場の両方と情報交換するなど、かなりいいとこどりのような気がした。さらには、それだけ政治の中枢に入り込んだならば、命の危険を感じてもおかしくないように思えた。実際に危険な目にあっているのだろうが、そこは描けない部分なのだろう。

おなじみの内容であることは間違いないが、楽しめる。




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