2013.4.11 スパイミステリーを読む気分 【自壊する帝国】
評価:3
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■ヒトコト感想
「国家の罠」で全貌を描き、本作ではロシアでの外交官としての出来事が描かれている。本作を読むと、もはや外交官ではなく諜報部員ではないかと思えてくる。それだけ、人脈をつくり政治の中枢へと入り込んでいく様が見事だ。ただの日本の外交官が、これほどまでにソ連の内部に入り込めたのはなぜなのだろうか。本作を読むことで、うっすらと感じるとることができる。
すべて実話なのだが、物語よりもスリリングだ。実在の事件を生で経験した作者が描く、ソ連崩壊とその序章。複雑で政治になじみのない人には難しいはずの状況が、整理され読み手にわかりやすいよう工夫されているので、問題なく楽しめる。ダラダラと教科書を読むよりも、何倍も勉強になるような気がした。
■ストーリー
「もともと、人見知りが激しい」という著者だが、モスクワ大学留学中に知り合った学生を仲介に、多くの重要人物と交流を深め、インテリジェンス(機密情報)を得る。ウオツカをがぶ飲みしながら、神学の教養を中心に幅広いテーマで議論を交わし、信頼と友情を勝ち取る。その豊富な人脈と情報収集力を1991年のクーデター未遂事件でも発揮、ゴルバチョフ大統領の生存情報をいち早く入手した。
■感想
シャイで人見知りな作者が、どのようにしてソ連で人脈を作ってきたのか。根本的なことは描かれておらず、作者も自分のことに関してはあまり分析していない。それでも、読めばなぜソ連の知的な層が作者に近づいたのかよくわかる。
整理された言葉の数々と、どんな状況であっても的確な状況判断。そして人脈を作るうえで何より大事な信頼関係。日本人がこれほどロシア人の心に深く入り込めるのかという驚きと、作者の能力の高さばかりが強く印象に残っている。
ソ連の歴史にうといとしても何の問題もない。難しい言葉もでてくるが、それらの意味がわからなくとも楽しめる。作者が付き合ってきた人物たちが、激動の時代をむかえるソ連でどのように出世または落ちぶれていったのか。
フィクションではなく、事実をもとに描かれているだけに、心に響くものがある。諜報員として情報を得るためには、電話の交換手やタクシーの運転手にまで気を使う。それらすべては諜報活動のためにあると言いつつも、作者の性格によるところが大きいのだろう。
今まで日本人でこれほどまでにソ連の政治の中枢から信頼された人物はいないだろうし、今後でてこないだろう。作者が外交の表舞台から姿を消したことは、日本にとってかなりの損失だったのではないだろうか。酒に強く、頭がよく、何より、何をすべきかわかっている。
出世に命をかける外交官とは違い、外交官としてのプライドで活動する。本作を読むことで、ソ連およびロシアの歴史に興味を持つことは間違いないだろう。激動のロシアを経験した若き作者が、諜報員として成長していく姿というのは、読んでいてワクワクが止まらない。
「国家の罠」に負けないほどのスリリングな展開がすばらしい。
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