君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい  


 2013.7.14     知られざるエッセイ 【君は嘘つきだから、小説家にでもなればいい】

                      評価:3
■ヒトコト感想
単行本に未収録のエッセイがつめこまれた作品集。雑多なエッセイ集なので、中には10年以上前のエッセイまである。今では売れっ子作家となった作者の、ちょうどブレイクし始めのころに描かれたエッセイというのは、意外な新鮮さがある。その他、「一刀斎夢録」を描くきっかけとなった出来事や、競馬についてのエッセイなど、作者の全様がわかる内容になっている。

作者の最近の作品しが知らない読者からすると、非常に新鮮に感じることだろう。特に競馬については、売れっ子作家として忙しい中でも、毎週の競馬は欠かさないというのはすごすぎる。その生活スタイルにしても、作家と読書と競馬で人生を埋め尽くしていると言っても過言ではない。そんな作者の状況がよくわかるエッセイ集だ。

■ストーリー

言葉の魔術に、酔いしれる。生き別れた母を想い、馬と戯れ、小説の神様と向き合う。人気作家の「心わしづかみ」エッセイ集。

■感想
作者のエッセイを読んだことがある人ならば、その面白さはすでに理解しているだろう。「勇気凛凛~」シリーズなどは有名だ。本作では、それら単行本に未収録のエッセイが集められている。そのため、かなり初期のころのエッセイもある。

デビューし、直木賞を受賞した直後のエッセイというのは、これから小説家として売れっ子になる直前の心境が描かれている。かなりの苦労人のはずが、最近のエッセイではあまりそれらが語られることはない。進学せず、自衛隊へ入るという意外な行動についての説明が非常に興味深い。

作者の競馬にかける熱い思いが伝わってくる。何十年も競馬をやりつづけ、特には一年の収支が百万単位でプラスになったりする。正直競馬でそれほど儲けることができるとは思わなかった。普通は無理だろう。ということは、作者の競馬に対する熱量は普通ではないということだ。

研究と情熱。その結果、金が手に入る。小説家として日々忙しく生活しながらも、ギャンブルをやめないその心意気が伝わってくるエッセイが多数取り揃えられている。競馬をほとんどやらない自分にもその熱さが伝わってきた。

様々な媒体へエッセイを提供している作者だけに、本作に収録されているエッセイは意外な媒体のものもある。企業の社内報から競馬の専門誌、はては同窓会の機関誌のようなものにまで。さすがに直木賞をとるような売れっ子作家は、あちこちから引っ張りだこなのだろう。

ただ、ひとつ気になる部分は、作者の過去の作品では、アウトローな部分がずいぶんと描かれていたが、本作ではそのあたりのエッセイがまったくない。最近の作者のイメージ戦略なのだろうか、それとも単純に過去の話として消し去りたいだけなのだろうか…。

作者のエッセイのファンならば、読んで間違いはないだろう。




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