消える上海レディ  


 2012.12.25    ホラー映画風な恐怖 【消える上海レディ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

高山殺人行1/2の女」や「幽体離脱殺人事件」と同じような雰囲気の作品だ。オチも同じかと思いきや、まったく別物で瞬間的な恐ろしさがある。自分と顔がそっくりで派手な身なりをした上海レディと呼ばれる女が存在し、その女に命を狙われる弓芙子。神出鬼没な上海レディの恐ろしさ。上海へ渡る船の中で、まるでホラー映画のように、クローゼットから飛びだす上海レディ。頭の中で想像する恐ろしさは、相当なものがある。青いペイズリー柄のチャイナドレスというのも、非日常すぎて違和感がある。上海レディの正体が不明のまま、物語がすすんでいき、怪しげな存在も見え隠れする。しわくちゃの老婆の存在が、よりホラー映画風味を高めている。想像力旺盛な人は、読み進めながら、身震いすることだろう。

■ストーリー

青いペイズリーの柄のチャイナ・ドレス、つば広の帽子、青いパンプスで着飾り、膝から下の美しい脚線を見せる謎の「上海レディ」…。取材で神戸―上海を結ぶ「鑑真号」に乗ることになった女性誌記者・弓芙子。だが、出港前から彼女の命を執拗につけ狙う、上海レディ・林翠玲。“密室”と化した船内で連続して起こる血の兇行。

■感想
自分とそっくりな女に命を狙われる。二重人格や幽体離脱のたぐいではない。何かを暗示するように、派手な身なりをした上海レディ。神戸ー上海間の航路で襲われたりと、身動きがとれない状況での恐怖というのが十分に伝わってくる。船上で何回か襲われ、すんでのところで逃げ切った弓芙子。なぜいつも直前で逃げだすことができるのか?船内で出合った怪しげな老婆の存在も、恐ろしさを引き立たせている。弓芙子が襲われたことを声高に叫んでも、誰も上海レディの存在を知らないというのが、さらに恐ろしくなる。弓芙子の勘違いなのか、みながグルなのか…。

過去の作品の流れからすると、二重人格だとか、薬物による妄想だとかを連想してしまう。夢の中で上海レディに傷つけられ、それが正夢のように現実となる。弓芙子自身にはまったく身に覚えがないだけに、ひたすら執念深く追いかけられるとういのは恐ろしくなる。原因がわからないだけになおさらだ。一緒に旅をする同僚だけが、唯一まともだと思われたが、上海レディの存在を証言してくれるはずのその同僚の姿が見えない。これはまさに、もどかしさが募る場面だ。恐怖体験を誰も信じてくれない。言いようのないやるせなさを感じる部分だ。

弓芙子が青いチャイナドレスの女に襲われるという恐怖と、その上海レディそのものが存在しないと判明したときの衝撃は相当なものだ。記者会見までひらかれ、大々的に上海レディをアピールされたのはなんだったのか。物語を根底から覆すような衝撃的事実だ。どこまでが仕組まれたことなのか。それとも、すべては弓芙子の妄想なのか。読者は物語の終着点を予想するが、なかなかオチが見えてこない。上海レディの正体は、なんとなくだが想像できる。ただ、弓芙子を襲う理由や、見た目が弓芙子とそっくりな仕組みがまったく想像できなかった。

ホラー映画的な、瞬間的恐ろしさのある物語だ。




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