幽体離脱殺人事件  


 2012.12.18    精神異常か二重人格か 【幽体離脱殺人事件】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

高山殺人行1/2の女」と似た雰囲気だ。中盤以降を読みすすめていると、高山殺人行とまったく同じオチなのでは?と思うほど似ている。一人称で描かれる登場人物が、奇妙な経験をする。それはまるで自分とそっくりな別の人物がいるような感覚となる。とまどう部分と、デジャブのようにフラッシュバックする光景というのは、まさに高山殺人行と同じだ。ただ、結末は違っている。タイトルにあるような幽体離脱という印象はない。錯乱したのか、それとも薬で混乱したのか。もしくわ精神に異常をきたしたのか。吉敷シリーズではあるが、吉敷は序盤と終盤のみ登場する。メインは、女同士の強烈なまでのライバル意識と、その過程で登場する、苦しくなるほどの混乱した世界だ。

■ストーリー

警視庁捜査一課・吉敷竹史の許に、一枚の異様な現場写真が届いた。それは、三重県の観光名所・二見浦の夫婦岩で、二つの岩を結ぶ注連縄に、首吊り状態でぶら下がった中年男の死体が写っていた。しかも、死体の所持品の中から、吉敷が数日前、酒場で知り合った京都在住の小瀬川杜夫の名刺が…。

■感想
「高山殺人行~」が、アリバイを目的とした女の隠蔽作業であったのに比べて、本作は何も知らない女が、旅先で奇妙な体験をするという流れだ。伏線として、序盤に吉敷が小瀬川という、なんとも憎めないキャラと遭遇する。この小瀬川には、どんな役割があるのかと期待したが、メインは別のところにあった。悲しくなるほど妻にないがしろにされている小瀬川。吉敷でなくとも、同情したくなるキャラクターだ。そんな小瀬川が結末に、なんとも悲しげな登場の仕方をする。不幸な人物には、どこか救いがあるのだろうと思ったのは、読者の勝手な希望でしかない。

女が旅先で強烈な体験をする。それは、まさに「高山殺人行~」と似た雰囲気と思わせる部分だ。自分の分身と思われる人物が、自分の知らないところで活動している。「高山殺人行~」と同様に、すぐさま思い浮かんだのは二重人格ではないか?ということだ。その後、何かしらの仕掛けを疑い、最後には精神的な異常を思い浮かべた。作中では意識が朦朧となる描写もあり、明らかに普通ではない状況を暗示していた。となると、ミステリーの仕掛けとして、どれだけ驚かされるかを期待してしまう。

今回、吉敷はあまり活躍しない。結末はそれなりに複雑で、しっかりと登場人物を理解し、読み込んでいなければ混乱する可能性すらある。女同士の強烈な嫉妬というか、方や裕福、方や貧乏となると、どうしても嫉みは生じてくる。経済的に主導権を握れない妻という立場であれば、なおさら相手の家庭の経済状況というのは、嫉みの対象になるのだろう。作中の女は、これほど強烈な嫉みの感情を表にだす人物がこの世に存在するのか?と思えるほど、恨みにも似た嫉妬心を持ちつづける。

精神異常かそれとも二重人格なのか、女が見たもうひとりの自分の謎がすべての鍵を握る。




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