2013.5.19 悲劇によって結ばれた人々 【家族狩り 第五部 まだ遠い光り】
評価:3
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■ヒトコト感想
家族狩りシリーズの最後を飾るにふさわしい作品だ。主要キャラクターの中で、真犯人のターゲットにされつつある亜衣の家族。そこに、馬三原や巣藤が関係していく。第四部までの印象から、真犯人像とまったくかけ離れたイメージの人物が犯人とわかり衝撃をうけた。
本作では、真犯人が残酷な行為へ手を染めるにいたる思考原理が細かく描かれている。表面をなぞるのではなく、心の奥底からの語りなだけに強烈なインパクトがある。宗教的な要素をもちつつ、残酷な行為の正当性を語る真犯人。到底、理解できることではないが、犯人像としての違和感はなくなった。結末として、多くの主要キャラクターが何かしらの決着をつけたので、読後感は良い。
■ストーリー
浚介は游子の病室を訪れた。二つの心は、次第に寄り添ってゆく。山賀と大野は、哀しみを抱えた家の扉を叩く。ふたりの耳は、ただひとつの言葉を求めている。冬島母子をめぐり争い続けてきた、馬見原と油井。彼らの互いへの憎しみは、いま臨界点を迎えている――。悲劇によって結ばれた人びとは、奔流のなかで、自らの生に目覚めてゆく。永遠に語り継がれる傑作、第五部=完結篇。
■感想
悲劇によって結ばれた人々は、どのような結末を迎えるのか。第四部で衝撃的な行為に及んだ駒田は、それなりの報いを受けることになる。復調した巣藤は、存在感が薄れてくるが、それは不幸な状況にないということの裏返しだ。
本シリーズでは、不幸になればなるほど目立つ。亜衣であったり、馬三原であっても、迫りくる不幸に対して受け入れるしかない。特に亜衣の壊れ方は、読んでいて心が痛くなる。真犯人のターゲットになるのは確実であり、巣藤や馬三原と真犯人のつながるきっかけとなることは容易に想像できる流れだ。
それぞれのキャラクターに決着がつく。不幸な結末になるキャラクターは、それなりに自業自得という思いがある。が、最後の最後に少しだけ救われたような描写もある。心を持ち直しつつある人物は、そのまま他人を手助けすることへと進む。
前に進む人物のエピソードを読むと、心が温かくなり幸せな気持ちになる。この気持ちがいつ壊れるのかとビクビクしながら読んだのが第三部ならば、本作では、結末が見えてきたということもあり、安心して読み進めることができた。
ラストは家族の愛とはなんなのか、人の心を試すような描き方をしている。親は子供のために命を捨てることができるのか。作中の問いかけを自分にあてはめ、真剣に考えるとドツボにはまる危険性がある。真犯人の拷問には、すべて意味がある。が、親が子供のために命を捨てるかという問いかけには答えをだすことはできない。
深みにはまると、宗教に走るしか救いがないようにすら思えてくる。物語の結末として、すべての登場人物たちに決着をつけているので、消化不良感がない。ただ、問いかけられた問題に対して、真剣に悩んでしまうと、心が病む危険性がある。
それだけ、読者の心の奥底に響く物語だ。
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