カシオペアの丘で 下  


 2011.4.11  すさまじい癌の闘病生活 【カシオペアの丘で 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻で発覚した不幸な状況。二十九年ぶりに帰ったふるさとで何をするのか。序盤からシュウが息子に病気を告白する場面が登場し、それが強烈に悲しい。わずか10歳の息子に、自分の余命があとわずかだということを告げなければならない苦悩。その悲しみを思うと、苦しくなる。物語はシュウの闘病生活と、シュウを取り巻く人々の心の思いが語られている。基本的には、過去のわだかまりを清算するという形だが、なぜそれほど過去にこだわるのか、少し理解できなかった。二十年前に付き合っていたからどうだというのか。それをさも重大ニュースのように、死ぬ間際に語るのはよくわからなかった。死が間近に迫った者の周りにいる人々の苦労は伝わってくるが、ちょっと予想していたのと違う展開になっている。

■ストーリー

二十九年ぶりに帰ったふるさとで、病魔は突然暴れ始めた。幼なじみたち、妻と息子、そして新たに出会った人々に支えられて、俊介は封印していた過去の痛みと少しずつ向きあい始める。消えてゆく命、断ち切られた命、生まれなかった命、さらにこれからも生きてゆく命が織りなす、あたたかい涙があふれる交響楽。

■感想
上巻ではシュウの癌と、川原さんのとんでもない状況に釘付けとなった。その流れのまま下巻では、癌を息子に伝えるシュウの悲しさと、現実を知りショックを受けるシュウの息子の気持ちを考えると、やりきれない思いがした。このまま、死を目の前にしたシュウと家族と、昔の仲間で何か川原さんと絡むのかと思いきや、シュウの過去の清算へと物語は動いていく。過去に何があり、「王」と呼ばれた祖父との関係や、「倉田」との関係など、シュウを取り巻く環境ばかりがクローズアップされている。この段階ですでに川原さんは忘れ去られたような感じだ。

シュウの闘病生活の描写は強烈だ。ジワジワと体を癌に蝕まれていく様が克明に描かれている。過去のわだかまりからVIP扱いを受けることを良しとしないシュウであっても、やはり恵まれた環境というのは人の行き死ににすら関わってくるのだとわかった。幼馴染との昔の思い出を語ると共に、二十年前の過去についても語り始める。このあたりで、過去の恋愛についてのギクシャクした場面が描かれているが、違和感しかなかった。死が目の前に迫っているにも関わらず、今更過去のことをあれこれ言うのはどうなのだろうか。笑い話として語れないほど深刻なのだろうか。

結末間近となり河原さんがやっと脚光を浴びる。そこで繰り広げられる出来事も、なんだか必然性を感じなかった。物語を通して、シュウの死が迫った状態で語られる真実の言葉がどれだけ心に響くのか。過去のわだかまりを捨て、一度は捨てたはずの故郷へ戻ってきたシュウの魂の叫びというのが、どう川原さんに影響を与えたのかいまいちはっきりしない。人の死を扱う物語というのは、どの立場に感情移入しようとそれなりに泣けてくる。ただ本作はめずらしくあまり悲しいという感情が湧いてこなかった。どちらかと言えば、残されたシュウの息子の思いにだけ、心が震えるような気がした。

下巻のほぼすべてがシュウの物語で終わるとは、かなり予想外だった。




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