2011.4.5 辛く悲しい境遇 【カシオペアの丘で 上】
評価:3
重松清ランキング
■ヒトコト感想
四十近い幼馴染たちが、カシオペアの丘で再会する。幸せな時を過ごしてきたとは思えない微妙な雰囲気。物語は、これでもかとつらく厳しい現実をつきつける。運命を恨むほどの辛い出来事や、衝撃的な事件など架空の物語とわかってはいるが、辛い。閉園間近といわれた「カシオペアの丘」で再会前に、それまで出来事が語られているのだが、かなり衝撃的な部分が多い。妻の不倫相手に娘を殺された川原さん。余命わずかと宣告されたシュウ。死を扱うとなると、どうしても悲しみがこみ上げてくるが、この上巻ではシュウと川原さんのこれからの過ごし方というのが語られている。どちらも辛いが、どちらかといえば、まだシュウの方がマシのように感じてしまった。
■ストーリー
丘の上の遊園地は、俺たちの夢だった―。肺の悪性腫瘍を告知された三十九歳の秋、俊介は二度と帰らないと決めていたふるさとへ向かう。そこには、かつて傷つけてしまった友がいる。初恋の人がいる。「王」と呼ばれた祖父がいる。満天の星がまたたくカシオペアの丘で、再会と贖罪の物語が、静かに始まる。
■感想
四十となり、それぞれ変わっていく幼馴染たち。親友に一生車椅子生活をさせることになったシュウが故郷を捨てる。原因はそれだけでなく、田舎に君臨したシュウの祖父である「王」の存在がある。複雑すぎるバックグラウンドに、シュウの感情がどうなっているのか読み取るのは難しい。おそらく、読者は誰に感情移入するか、もしかしたら誰にも感情移入できないかもしれない。それほど特殊な状況と、気持ちを安易に想像できるような境遇ではないからだ。肺がんを宣告され、冷静でいられるのか。そのとき、誰の顔を一番に思い浮かべるのか。家族への言葉は。シュウの思いは複雑すぎて伝わってこない。
赤字続きの「カシオペアの丘」の園長でもある車椅子のトシ。何も知らず一人蚊帳の外扱いのように感じられるが、人知れず苦悩というのは感じることができる。親友が突然姿を消した。その原因は自分が車椅子生活になったからだと思い込んだとしたら、相当心に負担はかかるだろう。その後、かろうじて幸せな生活を送っているように思えるが、心の奥底には、晴れない何かがある。それが「カシオペアの丘」で開かれた再会の場で、どう変わっていくのか、それは下巻になって初めてわかってくるのだろう。
本作でもっともインパクトがあるのは、間違いなく川原さんの境遇だ。信じられないような不幸。余命わずかと宣告されるよりも、辛い状況かもしれない。自分の人生に夢も希望ももてない状態だろう。そんな男と余命を宣告された男がお互いの心の思いを語る。不幸な者同士、愚痴の言い合いになるかと思いきや、シュウが説教をされてしまう。このあたり、常人では決して到達することのできない悟りの境地なのだろうか。作者独自の考え方なのだろうが、なぜ本作のような展開になるのか、最後まで疑問だった。
下巻では、おそらく悲しい場面が多数登場してくることだろう。こんな辛く悲しいストーリーを思いつける作者はすごい。
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