鍵のかかった部屋  


 2012.6.14   斬新すぎる密室たち 【鍵のかかった部屋】

                      評価:3
貴志祐介おすすめランキング

■ヒトコト感想

前作「狐火の家」ほどマニアックではないが、密室に対するこだわりはパワーアップしている。犯人に対する追い込みは、すべて密室が破れるか破れないかにかかっている。密室が破れれば、それで全てが解決してしまう。一般のミステリーとは違い、犯人を追いこむことについては、ほとんど重視されていない。そのため、密室がどれだけ強引な密室であっても関係ない。犯人が密室を構築するにあたり、その仕掛けについては、どんなに非常識な方法であっても、密室の答えとしてしまう。文章で読むよりも、映像で描いたほうがわかりやすいということからドラマ化されたようだが、この強引さに一般人がついてこれるか微妙だ。斬新な密室を求めるあまり、極端な例に走ったという感じだろうか。

■ストーリー

元・空き巣狙いの会田は、甥が練炭自殺をしたらしい瞬間に偶然居合わせる。ドアにはサムターン錠がかかったうえ目張りまでされ、完全な密室状態。だが防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、これは計画的な殺人ではないかと疑う(「鍵のかかった部屋」)。ほか、欠陥住宅の密室、舞台本番中の密室など、驚天動地の密室トリック4連発。

■感想
確かに驚愕な密室トリックではある。今までにない密室という意味ではそうかもしれないが、そんな画期的な密室を作るためには、それなりに不自然なこともでてくる。それが本作でいうところの、犯人の下準備だ。密室を作ること、それだけに集中しているために、その準備中に人に見られることや、あまりに成功確率の低いぶっつけ本番な密室であっても、完璧にやり遂げてしまう。ここまで徹底していると、密室の不自然さを感じなくなる。新しい密室を作るためには、それなりに無理をしなければならないということだろう。

硝子のハンマー」の強烈なインパクトほどではないが、今回も複雑な密室が登場する。「鍵のかかった部屋」は表題作とういことで、複雑怪奇で、なかなか文章だけではすんなり理解できない。サムターン回しがどうだとか、普通に考えると実現不可能なことが、ツラツラと描かれている。フィクションとして読む分には面白いのだが、榎本が密室を破るあたりにくると、「そんなバカな」という感想をもってしまう。榎本が少ない証拠からすべてを看破するというのも、そう思う要因なのかもしれないが、斬新さを求めすぎた結果、シンプルさを犠牲にしている。

「歪んだ箱」は、まさにトリックを作りこむ段階で「そんなことまでするかぁ?」という印象しかない。一風変わった密室なのかもしれないが、密室を作り上げるために大掛かりな道具を使いすぎではないだろうか。欠陥住宅の密室という今までにない題材なので、面白さはあるのだが…。全体的に密室に対するこだわりがすさまじすぎて、ライトなミステリーに慣れている人には、到底ついていけないだろう。ドラマ化され脚光を浴びているようだが、このシリーズとしての路線を貫くには、そろそろネタ切れになりそうな気がした。

これほど凝りに凝った密室ミステリーは、今までに読んだことがない。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp