狐火の家  


 2011.9.29  状況としての密室 【狐火の家】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

硝子のハンマーのキャラクターが新たな密室へと挑戦する。防犯コンサルタントという怪しげな榎本のキャラは立っている。密室に取り組むスタンスも、自分の利益優先というのがはっきりしているのは良い。ただ、密室事件にどこまで不可能性があるかというのが問題だ。密室なのはよくわかり、関係者のアリバイ等で不可能な状況だというのはわかるが、それは状況としての密室であって、硝子のハンマーのように、強烈なトリックがあるわけではない。なんとなく言葉のマジックでうまく言いくるめられたようなそんな印象だ。そうは言っても、短編としてコンパクトにまとまっているので、読みやすく事件もすばやく解決するので、まどろっこしさがないのが一番良いのかもしれない。

■ストーリー

長野県の旧家で、中学3年の長女が殺害されるという事件が発生。突き飛ばされて柱に頭をぶつけ、脳内出血を起こしたのが死因と思われた。現場は、築100年は経つ古い日本家屋。玄関は内側から鍵がかけられ、完全な密室状態。第一発見者の父が容疑者となるが…(「狐火の家」)。表題作ほか計4編を収録。防犯コンサルタント(本職は泥棒?)榎本と、美人弁護士・純子のコンビが究極の密室トリックに挑む、防犯探偵シリーズ、第2弾。

■感想
硝子のハンマーを読んでいれば、すんなりと入りこめるだろう。美人弁護士の純子がそれほどキャラ立ちしていないが特に問題はない。榎本の信じられない推理力に驚きながら読むべき作品だろう。中でも表題作である「狐火の家」は練りこまれた伏線がすばらしい。最初の密室だけでなく、それと連動するように二つ目の密室事件が登場する。状況的に密室というのは変わりないのだが、タイトルとオチがうまく絡んでいるのが良い。強引な密室というイメージもあるが、密室状態を作ることに意味があるという言葉には、まるで作り手からのメッセージのように感じられる。

「黒い牙」はタランチュラがポイントなのだが、驚きのオチだ。それも納得できる驚きではなく、「それはないだろう」という半分呆れる気持ちだ。冒頭から読み進めるうちに、何か裏があるだろうとは思っていた。一瞬、ゴキブリではないかと思ったが、蜘蛛だった。密室トリックとしてタランチュラを使うとなると、ある程度想像することがあるが、その上をいっている。言葉で言うのは簡単だが、実際にそれを実行にうつすというのは相当なことだ。オチを読むと、なんだかぬいぐるみのようにデフォルメされたタランチュラを思い浮かべてしまった。

「盤端の迷宮」はかなりマニアックだ。作者が綿密な取材の上で作品を描いているのはわかっていたが、将棋をテーマにマニアックな知識を全開されると、ついていくのがかなり大変だ。一般的な将棋の知識は、最低限もっていることが前提なのだが、マニアックだ。将棋好きならば納得の内容なのだろうか?コンピュータ全盛の今ならば、将棋の対局にもいろいろと変化がおきるだろう。密室というのはほとんどオマケでしかなく、将棋という特殊な勝負の世界ならでわの、限定されたミステリーだ。

短編ということで、キャラクターの魅力よりも、テーマにどれほど興味をもてるかにかかっている。




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