重力ピエロ


 2011.9.16  知的な会話に違和感なし 【重力ピエロ】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
原作の雰囲気がよくでている。不思議で知的な会話。こんな会話を普段からする人はいないだろう、というような会話を不自然なく受け入れられたのは小説だからかと思ったが、意外にも映像化されても違和感なく入りこむことができた。春や泉水などの配役もすばらしいが、特に父親が秀逸だ。この父親にしてこの息子たちあり。原作の感動ほどではないが、それなりに楽しめる。映画化にあたり、多少の味付けがされており、それが良い効果を生んでいる。遺伝子の話や、ガンジーの言葉など、小難しい話が続き、人によっては嫌気がさすかもしれない。ラストも、都合の良すぎる展開かもしれない。それでもこの兄弟には幸せになってもらいたいという、変な応援する気持ちがわいてくる。

■ストーリー

遺伝子研究をする兄・泉水と、自分がピカソの生まれ変わりだと思っている弟・春。そして、優しい父と美しい母。平穏に、そして陽気に過ごすこの家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった時、事件は始まる。謎の連続放火事件と、火事を予見するような謎の落書き(グラフィティアート)の出現。落書きと遺伝子暗号の奇妙なリンク。春を付け回す謎の美女と、突然街に帰ってきた男。すべての謎が解けたとき、24年前から今へと繋がる家族の"謎"が明らかになる

■感想
ミステリー的な謎はどうでもよく、このなんともゆるい雰囲気が良い。原作の良い意味でのゆるさが画面から伝わってくる。それは配役がすばらしいからだろう。特に父親役がすばらしいために、それに引っ張られるように息子たちも、ゆるくのんびりとした、見ていて優しい気持ちになれる兄弟となっている。原作を知らず、いきなり本作を見たとしたら多少面食らうかもしれない。意味不明な会話を続き、よくわからない比喩が登場する。シンプルではなく、あえて小難しくしているのをどう感じるかによって評価が分かれるだろう。

作品の全体のトーンがのんびりとしているので、忘れがちだが、物語はとても強烈で悲しい物語だ。とんでもない悲劇に直面しても、なんだかよくわからない前向きさと、のんびりとした父親によって、どうってことないことのように思えてくる。ただ24年前に起きた事件が、最後まで兄弟に重くのしかかっているのは事実で、それをどうやって乗り越えるかが本作のポイントかもしれない。ラストには衝撃的な事実が待っている。原作の時には感じなかった、あまりに都合が良すぎると感じた理由は何なのだろうか。

映画化として原作にはない要素が少しだけ付け加えられているが、それも良かった。特別世界観を崩すようなものではなく、キャラクターのイメージを損なうものでもない。ミステリアスな流れについては、ありがちなのかもしれないが、知的な会話と、何かを比喩しているような独特な言い回しを楽しめるのは原作と同様だ。原作ファンならば何の問題もなく楽しめることだろう。ただ、原作を何も知らない人が見たとして、どう思うかはわからない。

好き嫌いはあるだろうが、アヒルと鴨のコインロッカーよりは映像化に成功していると思う。



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