邪魔 下  


 2011.3.7  どうしてこうなった?登場人物たち 【邪魔 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻で仕掛けられた爆弾が、この下巻で一気に爆発した。暴走する主婦、辞職に追い込まれる刑事、ヤクザと刑事に追われる高校生。すべての登場人物たちに「どうしてこうなった?」という思いが心の大部分を占めているのだろう。ちょっとしたミスの帳尻をあわそうとした、ほんの些細なことが、大きな過ちとなる。後悔してもすでに遅く、どうにもならない状況は読んでいて辛かった。最悪でも感じたことだが、本作はさらに上をいっている。さらには、ラストの展開が最悪以上に後味が悪い。夢や希望のある終わり方ではない。平凡な人生を送りたかった者たちは、どうしようもない現実から逃げ出すしかない。誰一人として幸せにならない結末。唯一、死人がでないということだけが救いかもしれない。

■ストーリー

九野薫、36歳。本庁勤務を経て、現在警部補として、所轄勤務。7年前に最愛の妻を事故でなくして以来、義母を心の支えとしている。不眠。同僚・花村の素行調査を担当し、逆恨みされる。放火事件では、経理課長・及川に疑念を抱く。

■感想
極限まで追い詰められた人間は何をするかわからない。まず上巻から放火容疑によって追い詰められていく及川。そして、妻である恭子は夫を信じられず、自分と子供のことだけを考えるようになる。この心理は良く分かる。自分ではどうしようもない状況に陥ったとき、緊急避難策として、自分たちの未来に逃げ場を作るということだ。その逃げ場が、権力に対してむやみやたらに抵抗する怪しげな会であったり、金を手に入れるためにスーパーの社長の秘書になるという行為なのだろう。この恭子の壊れっぷりが一番のポイントかもしれない。まさしく「どうしてこうなった?」という典型が恭子だ。

刑事である九野に関しては、新たな衝撃的事実が明らかとなる。刑事として有能な九野が、義理の母親の元へ足しげく通う理由。まさか、そのパターンかという衝撃と、本作の登場人物たちはどこか心に病を持っているのだとあらためて認識させられた。どうにもならない状況に追い込まれ、最悪な状況から抜け出すために、自分自身の心が勝手に逃げ場を作り上げたのだろう。極限まで追い込まれた人の、あるパターンが示されている。この九野というキャラクターが唯一の良心かと思ったが、どこか心にひずみがあるのは間違いない。

放火事件のミステリーは結局存在しない。登場人物たちを追い詰める材料として存在しているだけだ。後半になると、及川夫婦の特に恭子のどうにもならない状況に心が痛くなる。何をやっても裏目となり、味方を作ったかと思うと、そこにも落とし穴がある。マッチポンプのようにちょっと事態が好転したかと思うと、すぐに前回よりもさらに大きな落差で突き落とされる。人生とはこれほど辛く厳しいものなのかと考えさせられる。すべては自業自得といえなくもないが、客観的に考えて「どうしてこうなった?」という思いは強い。

このシリーズは作中のキャラに同調すると、心が痛くてたまらない。




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