国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて  


 2013.2.5     虚構よりもスリリングな現実 【国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて】

                      評価:3
■ヒトコト感想
衝撃的な作品だ。事実にもとづいて描かれた作品だが、下手な小説作品よりもスリリングだ。実際に行われた国策捜査を、国策捜査された側が描く。実名で登場人物を描いているので、クレームがこないかと心配になるほど臨場感にあふれている。事件当時、何が起きていたのか。作者の詳細な記述により、まるでドラマを見ているような気分になる。正確に言葉を整理して描かれているので、本来なら難しいことのはずが、スラスラと頭に入ってくる。作者の頭の良さが伝わってくる文章だ。難解な専門用語を使うのではなく、誰もがわかるように噛み砕いた説明の数々。内容は難解だが、異常に理解しやすい文章。これほどすばらしい作品なのに、今だ映像化されていないのは、すべてが真実なので、映像化には危険すぎるからだろうか。

■ストーリー

2000年までの平和条約の締結と北方領土の返還という外交政策の実現を目指して、ロシア外交の最前線で活躍していた彼は、なぜ「国策捜査」の対象となり、東京地検特捜部に逮捕されされなければならなかったのか? そもそも、検察による「国策捜査」とは何か? さらに、鈴木宗男代議士による外務省支配の実態とは? 小泉政権誕生の「生みの母」とまで言われた田中眞紀子外相の実像とは? 宗男VS.眞紀子戦争の裏側で何が起こっていたのか──。512日にも及んだ獄中で構想を練り、釈放後1年以上をかけて執筆された、まさに入魂の告白手記。

■感想
佐藤優という人物はメディアの報道だけ見ていると、とんでもない人物に思えてくる。それが、本作を読むことでイメージはがらりと変わってくる。ただ、本作の内容をそのまま鵜呑みにするのは危険だ。片側からの一方的な文章なので、公平性はない。だとしても、物語としてはかけねなく面白い。ノンフィクションなのだが、スリリングでその時代の政治や外交の方針が手にとるようにわかる。政治的な話について、ほとんど知識のない状況であっても楽しめる。へたに守りに入り、重要人物をイニシャル表示するようなことなく、すべて実名というのがしびれてしまう。

作者がノンキャリアということに驚いた。その能力の高さは、慕ってくる人物や対応する外部のハイグレードな人物により伝わってくる。その能力の高さの根源は何なのか。当然努力もしているだろうし、運にも恵まれていたのだろう。ただ、作者の一貫した「国益を守る」という信念が作者を突き動かしていたような気がした。田中眞紀子が外務省をむちゃくちゃにした当時。何も知らない国民は、田中眞紀子を応援していた。が、本作を読むと、その無能ぶりに腹がたってしょうがない。すべてを信じるのは危険だが、物語としての面白さが、妙な説得力を生み出している。

国策捜査の恐ろしさは、とんでもないことだ。ターゲットと少し関わりがあっただけで、民間企業の社員が逮捕されてしまう。国策捜査だからしょうがない。なんてことで割り切れるものではない。作者のように、個人としての能力が高いものは、その後の生活はどうにでもなるだろう。一般人は、一度有罪になると、人生は終わったも同然だ。人の運命さえもあっさりと変えてしまう検察というのは、恐ろしいとしか言いようがない。ただ、本作を読んでいると、それもしょうがないのかな、と思えてくるから不思議だ。

これほど難しい内容を、無知な者にも簡単に理解させる文章力はすばらしい。




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