一刀斎夢録 下  


 2012.4.27   死にきれないのは、負け 【一刀斎夢録 下】

                      評価:3
浅田次郎おすすめランキング

■ヒトコト感想

上巻ではエンターテイメント性あふれる斉藤一の戦いの歴史が語られていた。下巻では、あれほど強さを誇った新撰組が負け、死に場所を求めてさまよう様が描かれている。そんな状態でありながら、乞食の少年をひろい、紆余曲折ありながら、斉藤が弟子として剣技を教え込む。死にきれない男が、悪鬼と呼ばれるようになった理由が語られる本作。惨めなまでの敗走描写と、死にきれない苦悩が作品からにじみ出ている。圧倒的強さを誇った斉藤一が、どのような結末を迎えるのか。西郷隆盛が西南戦争を起こした真相など、作者独自の解釈が面白く、斉藤一の自分語りに引き込まれてしまう。斉藤一のラストの対決描写では、頭の中にはっきりとその情景が浮かんできた。

■ストーリー

悪鬼の所業と言わば言え。土方の遺影を託された少年隊士と斎藤。二人の縁は慟哭の結末へ。

■感想
悪の魅力あふれる斉藤一。どんなことをしてでも勝ち、生き残るというスタンスは下巻でもかわらない。ただ、敗走を続ける新撰組としては、死に場所を探すといった意味合いの方が強いのだろう。斉藤一も、最後の最後まで死に切れないと嘆く。衝撃的なのは、作者独自の解釈として、西郷隆盛が西南戦争を起こした理由が語られている。反乱を起こした西郷隆盛が、なぜ日本国民に愛されているのか。上野に銅像ができるまでになった理由とは…。確かに作者の考え方には、ある程度説得力がある。すべてが仕組まれた芝居というのは新しい考え方だ。

斉藤一の唯一の弟子として存在した少年隊士。その少年隊士が間違いなく本作の一番のポイントだろう。斉藤が悪鬼と呼ばれる理由として語られる衝撃的事実。最後まで死に切れない男は、結局は負けということになる。相手の隙をつき、どんなことをしてでも勝つという斉藤の考え方が、最後の最後に自分の首をしめることになる。最後の対決シーンは、極度の緊張感と、その瞬間がまるでスローモーションのように頭の中に思い浮かんでしまう。それほど強烈なインパクトのある描写だ。

基本的に斉藤一の一人語りが続けられている本作。上巻での胸のすくような戦いの描写から、敗走へといたり、最後は惨めに生き残った理由が淡々と語られている。歴史にそれほど詳しくはないので、新鮮な驚きや、作者が提唱する新説には、驚かされずにはいられない。新撰組という組織の中で、ただ一人斉藤一の弟子として存在した少年隊士。その生き様を読んでいると、涙がでそうになる。「壬生義士伝」から始まる物語を最初から読んでいると、思い入れの強さから、本作は強烈に心に残る作品となることだろう。

死に切れないことが負けとなる世界は衝撃的だ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp