玻璃の天  


 2012.2.27  時代の暗黒面が見え隠れ 【玻璃の天】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ベッキーさんシリーズの第二弾。前作から引き続き、昭和初期の雰囲気を存分に味わうことができる。本作ではさらに戦争へと向いつつある日本に対する警告のようなものまで含まれている。国の方針へ従わない者たちについての風当たりの強さや、思想に関する弾圧など、自由のない日本をかすかに描いている。ただ、それらの雰囲気は物語の枠組みでしかなく、根本には作者の豊富な知識と、小難しい文学的な話が続くことになる。特に暗号のたぐいはまったく理解不能だ。作者はかならずこの手の複雑なトリックを組み入れてくるが、どうもそれをすんなり楽しむことができない。おそらく自分の文化的なレベルが低いせいなのかもしれないが、かなりハードルが高いように感じた。

■ストーリー

昭和初期の帝都を舞台に、令嬢と女性運転手が不思議に挑むベッキーさんシリーズ第二弾。犬猿の仲の両家手打ちの場で起きた絵画消失の謎を解く「幻の橋」、手紙の暗号を手がかりに、失踪した友人を探す「想夫恋」、ステンドグラスの天窓から墜落した思想家の死の真相を探る「玻璃の天」の三篇を収録。

■感想
「幻の橋」は浮世絵の知識があればより楽しめるだろう。絵の消失よりも、その絵にどんな意味があるのかを理解できればいいのだろうが、なかなかイメージするのが難しい。犬猿の仲の両家が、仲直りするための絵に大きな意味がある。ロミオとジュリエット的な叶わぬ恋に熱をあげる女性の存在により、ベッキーさんが活躍する。新聞に登場した偽の死亡記事から始まる両家の仲たがいの裏には、いったい何があったのか。それらが明らかになるとき、驚きはないが、時代の犠牲者たちを気の毒に思うしかない。

「想夫恋」は作者得意の暗号ものだ。前作にも似たようなトリックがあったが、なかなか理解するのは難しい。こと細かく説明は書かれているのだが、それを集中して読み理解しようという気が起きない。そうなってくると、トリックはさておき、物語がどうなるかに集中してしまう。昭和初期のご令嬢たちの厳しい恋愛事情を思うと、同情せずにはいられない。そんな時代の影響からか、駆け落ちのようなことをし、その結末として暗号が重要となる。小難しく、それなりの知識がないと楽しむのは難しいかもしれない。

「玻璃の天」は表題作でもあるので、一番印象に残る作品だ。その時代独特の思想や国をあげての間違った方向へ一直線に進む流れ。それらにほんろうされ、被害を受けた者たちの復讐物語といえなくもない。本作ではベッキーさんの謎がわずかに明らかとなり、ベッキーさん自身も時代の犠牲者だということがわかる。物語全体として、ご令嬢の周辺は特権階級のため切迫した時代の雰囲気を感じることはない。ただ、上流階級にもジリジリと迫りくる戦争の闇というのは、感じずにはいられない。

シリーズがすすむにつれて、時代の闇を強く感じずにはいられない。




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