栄光なき凱旋 上  


 2012.10.11    日系人目線の戦争物語 【栄光なき凱旋 上】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

戦争を描いた小説というのはよくある。浅田次郎の「終わりなき夏」も、戦争の違った側面を描き印象深いが、本作も負けずに印象深い。アメリカに住む日系二世たちが、アメリカと日本が戦争を始めた結果、どのような立場に追い込まれていったのか。日本軍が真珠湾を攻撃してから、アメリカ国内で不遇な目にあう日系人たち。どれほど事実に則しているかわからないが、ありえないことではない。アメリカ国籍をもつが、見た目は日本人そのまま。日本語をたくみに操れるからと、戦争にかり出され、または、日系人の立場の向上を目指し、積極的に参加する。太平洋戦争をアメリカに住む日系人目線で描くというのは新しい。戦時中、対戦国と同じ人種がどのような扱いを受けるのか、本作の描き方がリアルな実状なのかもしれない。

■ストーリー

1941年。日系2世の3人の青年は、ロサンゼルスとハワイに暮らしていた。だが日本軍が真珠湾を攻撃したことから、彼らの生活は一変する。ジローは語学兵にスカウトされ、ヘンリーは日系人の強制収容に抗議して法廷へ。マットは仲間と銃を手にとる決意をする。

■感想
日系二世の3人を主役とし、物語を描いている。ハワイで暮らすマット。日系人のエリートとして羽ばたくはずだったヘンリー。日本に恨みをもつジロー。それら3人が、戦争が始まったことをきっかけとして、それぞれの道を歩み始める。日系人として語学力を生かす者や、同じアメリカ人として差別されることに抵抗する者。戦争が始まった瞬間から、それまで同じアメリカ人として生活してきた者たちが、敵国の人間として目を向けてくる。日本人でもなくアメリカ人でもない、そんな中途半端な状況は、もしかしたら今の日本に住む日系韓国人にも言えることかもしれない。

物語は、敵国の言葉を話せるアメリカ人ということで、戦地へと3人を導いていく。戦地では、より相手が日本人ということを意識することになる。残酷な現実はあるが、圧倒的な力をもつアメリカ側からしても、カミカゼの国日本を恐れる気持ちはある。戦争というのは、どちら側に立っても、よいものではない。日本から見たアメリカは強国ではあるが、アメリカから見た日本も、得たいのしれない恐怖はある。それを日系人の目をとおして描き、どのようにしてこの難局を乗り越えていくかが、アメリカ目線で描かれている。

戦争物語として、アメリカに住む日系人を主役にした作品は読んだことがない。日本目線や、アメリカ目線ならばわかりやすいが、アメリカに住む日系人ということに複雑さがある。両親の国籍は日本でありながら、二世たちは、顔は日本人でも国籍はアメリカとなる。話せる言葉も、それほど流暢に日本語を話せるわけではない。見た目が日本人であれば、戦争の敵国としての風当たりは強くなる。そんな中途半端な状況におかれた者たちが、どのようにして戦争を乗り切るのか。下巻では戦地での激しい戦闘がまっているであろうと、容易に想像できる流れになっている。

戦時中の日系人の立場を、壮大な物語として描いている。




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