道徳という名の少年  


 2013.1.12    おとぎ話のような雰囲気 【道徳という名の少年】

                      評価:2.5
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■ヒトコト感想

連作短編集だが、もともとは独立した短編だったのだろう。それぞれテーマが異なっている。ただ、前の短編の主人公となんらかの繋がりのある人物が、次の短編の主役となっている。そのため、物語として継続性があるようだが、結局何が言いたいのかよくわからないまま終わってしまったような感じだ。あいまに挟まれる挿絵も、どういった意味があるのかよくわからない。短編ひとつひとつは、それなりに感じるものはあるのだが、奇妙でヘンテコな話という印象が強い。顔のことを”かんばせ”と表現し、美しいかんばせを持つ男と女が主人公の物語は、ちょっとした神話のような雰囲気すらある。何かを暗示しているのか、それとも…。深読みすれば、いくらでも深読みできる構成となっている。、

■ストーリー

町でいちばん美しい三姉妹が死んだとき残ったのは(1,2,3悠久!)、愛するその「手」に抱かれて私は天国を見る(ジャングリン・パパの愛撫の手)――ゴージャスな毒気とかなしい甘さに満ちた作品集。「愛してるわ!ずっと昔から…。子供の頃から、愛していたわ!」町でいちばん美しい、娼婦の四姉妹が遺したものは?(1、2、3,悠久!)、黄色い目の父子と、彼らを愛した少女の背徳の夜(ジャングリン・パパの愛撫の手)、死にかけた伝説のロック・スターに会うため、少女たちは旅立つ(地球で最後の日)

■感想
作者の作品で、”かんばせ”が登場するのは「少女七竈と七人の可愛そうな大人」が最初だったが、そこで感じた違和感は、本作では感じない。ただ、かんばせという言葉の響きが、それだけでなんだか高貴なもののように感じてしまうから不思議だ。”顔が美しい”よりも”美しいかんばせを持つ”の方が、より美しく感じてしまう。かんばせと共に特徴的なのは、主人公たちに人間的感情がほとんど感じられないというところだ。どこか魂のこもっていない肉人形のような印象をもつのは、作者の代表作でもある「GOSICK」の影響だろうか。

「ジャングリン・パパの愛撫の手」は、ちょっとしたホラーのようにすら感じてしまう。戦争で腕を無くした息子のために、父親が腕の代わりとなり、妻を愛撫する。おぞましい状況ではあるが、無機質なキャラクターを頭に描くと、それほど嫌悪感をいだかない。そればかりか、美しい親子愛のようなものすら感じてしまう。言葉を発しない妻と、両腕を無くした夫。そして、息子の腕代わりになる父親。異常な状況もおとぎ話のような雰囲気の中で語られると、すべてが中和されるようで、グロテスクさが消え去っている。

あいまに登場する挿絵の意味というのが、イマイチよくわからなかった。物語全体としてどのような意味があるのか。背徳の物語かと思えば、銃を背負った伝説のロックスターの話が始まったりと、物語に整合性はない。あるのは、脈々と受け継がれてきた、美しいかんばせを持つ一族というだけだ。全体的に作者の作品を読み慣れていれば十分楽しめることだろう。少し隠微で奇妙で不思議な雰囲気を楽しみながら読むのが正しいのだろう。余計な勘繰りをして、物語の整合性を求めてはならない。

結局、タイトルと内容がどのようにリンクしているのか、イマイチよくわからなかった。




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