少女七竈と七人の可愛そうな大人  


 2011.9.28  ホンワカとした気分になれる 【少女七竈と七人の可愛そうな大人】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

母親は淫乱。その母親から美しく生まれた少女七竈。七竈とその周りにいる大人たちの物語だが、青春らしさがない。丁寧な言葉遣いと美しさに対する嫌悪感に近い思いから、高校生らしい青春というものをいっさい感じない。「美しく生まれてしまった」と美しさを欠点のように語る七竃。そこには嫌味のない、純粋な気持ちがあらわれているようだ。顔つきのことを”かんばせ”と語り、美しさについて常に引け目を感じている。可愛そうな大人というタイトルだが、皆、どこか優しく愛に満ち溢れているように思えてくる。自由奔放で淫乱な母親の元に、これほど古風な子どもが育つのだろうか。非日常感よりも、どこかホンワカとした気分になれる物語だ。

■ストーリー

「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竃は、群がる男達を軽蔑し、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友として孤高の青春を送っていた。だが、可愛そうな大人たちは彼女を放っておいてくれない。実父を名乗る東堂、芸能マネージャーの梅木、そして出奔を繰り返す母の優奈―誰もが七竃に、抱えきれない何かを置いてゆく。そんな中、雪風と七竃の間柄にも変化が―雪の街旭川を舞台に繰り広げられる、痛切でやさしい愛の物語。

■感想
美しい少女七竃。幼馴染で同じく美しい顔をもつ雪風。町を歩けば必ず人がふり返る美しさを持つ二人には秘密がある。七竃と雪風二人の古風な会話シーンは読んでいて楽しくなる。今どきこんな高校生はいないだろうという思いと、旭川の田舎町には、雪のように肌の白い美しい少年少女がいるのかもしれないと思わせる勢いがある。青春時代には、美しさは重要な要素だ。それをあえて美しいことを悩みとする二人には、なぜか好感がもてる。雪国での青春物語だが、決まりきった物語ではない。

七竃の母親は淫乱だ。淫乱の母親からは美しい子どもが生まれるという良く分からないが、変に説得力のある言葉が印象的だ。町のいたるところに、母親と関係をもった男たちがいる。自由気ままに遊びまわり家に居つかない母親というのもすごければ、そんな母親に育てられながら、真っ当に成長した七竃もすごい。こんな家族に囲まれ、美しい容姿をもっていれば、普通は煌びやかな世界へと羽ばたくのだろう。本作でも芸能マネージャーにスカウトされる描写があるが、それらを一蹴するのは、さすが七竃としか言いようがない。しっかりとキャラが確立されている。

何か大きな事件が起こるわけでもない。淡々と七竃の高校卒業までを様々な登場人物たちの目線で語っている。安易な恋愛風味でもなく、ギスギスとした青春特有の自分探しなんてこともない。作者にしてはめずらしく、ホンワカと優しい気持ちにさせる物語だ。「私の男」的に、雪風との禁断の何かかと思ったがそうではない。母親との関係が多少ギクシャクしつつも、基本的に七竃の生活に大きな波風はない。美しい”かんばせ”をもつ少女が進学するまでを、愛に溢れる大人たちに見守られながら、七竃の生活が描かれている。

過激さが足りない分、物足りなく感じるかもしれないが、これはこれで良いと思う。




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