2011.8.17 圧倒的な演技描写 【チョコレートコスモス】
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■ヒトコト感想
芝居に対して思い入れがある人が読むと、どのように感じるのだろうか。芝居にほとんど興味がなかったが、本作を読んで興味がわいてきた。まったくの素人が天才的な芝居の才能をみせる。地味な少女があるとき、突然才能に目覚める。芝居の世界はよくわからないが、すさまじい世界だということは伝わってくる。佐々木飛鳥という少女が、一瞬にして他人を模倣し、素人ながらオーディションで衝撃的な演技をしたりと、荒唐無稽なのかもしれないが、ワクワクした。これが芝居をよくわかっていたら、さらに楽しめたことだろう。芝居なんてしょせんテレビドラマと一緒だと思っていたが、まったく別物なのだろう。芝居に対する情熱のようなものがしっかりと伝わってきた。
■ストーリー
芝居の面白さには果てがない。一生かけても味わい尽くせない。華やかなオーラを身にまとい、天才の名をほしいままにする響子。大学で芝居を始めたばかりの華奢で地味な少女、飛鳥。二人の女優が挑んだのは、伝説の映画プロデューサー・芹澤が開く異色のオーディションだった。これは戦いなのだ。知りたい、あの舞台の暗がりの向こうに何があるのかを―。
■感想
舞台でやる芝居は見たことがない。演技といえば、テレビドラマや映画での演技しか思い浮かばない。そんな人は、本作を読むことで、芝居というものの見方が変わるだろう。テレビでは劇団出身の俳優がでてくることがあるが、それらの俳優たちも強烈な芝居の世界を経験したのだろう。芝居の世界はよくわからない。作中で語られる壮絶な演技というのは、文章で書かれているのをそのまますんなりイメージするのはむずかしいかもしれない。それでも、飛鳥がとんでもなくすごい才能の持ち主だということはわかる。読んでいてワクワクしてきた。
作者は芝居に目覚めたのだろうか。「中庭の出来事」でも芝居がテーマとなっており、本作もコアな芝居のファンでなければ描けない物語だ。芝居に関してはまったくの素人であっても、芝居の世界のすさまじさというのが十分伝わってくる。観衆をどれだけ異次元の世界へ巻き込むことができるのか。飛鳥の初舞台の描写は、まさに鳥肌が立ってしまうほどだ。不意に登場し、異常な雰囲気をかもし出す観客という演技。よくわからないが、作中に描かれている説明を読むと、寒気がしてくる。演技として瞬時に表情や雰囲気を変えることのすさまじさを感じる場面だ。
ラストのオーディションの場面では、ある程度芝居をわかっていないと辛いかもしれない。響子のすさまじさを説明している場面では、わかるのだが、演じられている芝居自体にあまりなじみがないので、なんだかよくわからないがすごいという印象しか残らない。異次元の存在である飛鳥については、すごさが突き抜けているだけに、芝居の素人にも簡単に伝わってくるすごさだ。もしかしたら、芝居に詳しい人からすると、ろいろと不満があるかもしれない。ただ、本作で登場する芝居の天才たちの演技のすさまじさというのは、本作を読めば誰でも心に響く何かがあるだろう。
芝居が好きな人はもちろん、興味がない人にも、興味がわいてくるかもしれない。
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