中庭の出来事  


 2011.4.15  内と外を読み分けられるか 【中庭の出来事】

                      評価:3
恩田陸ランキング

■ヒトコト感想

非常に難解な作品。劇中劇なのだが、どこまでが劇でどこからが本編なのか混乱する可能性がある。内と外をしっかり見極められる人でなければ面白さはわからないだろう。あるパーティで起こった事件。それをなぞるように芝居を演じさせる警察。三人の女優たちがそれぞれ演技をし、そこから事件の真相を探ろうとするのだが、かなり難しい。作中に登場する、奇妙な出来事も含めて、何が真実で何が虚構なのか。どこまでを事件の真相として捕らえて良いのか混乱する可能性がある。すべては脚本として描かれていたことのようにも思えるが、そうではないようにも感じる。トリックの真相を明かされたとして、どれだけそれに驚くことができるか。物語の虚実を見分けることができなければ、かなり辛い。

■ストーリー

瀟洒なホテルの中庭で、気鋭の脚本家が謎の死を遂げた。容疑は、パーティ会場で発表予定だった『告白』の主演女優候補三人に掛かる。警察は女優三人に脚本家の変死をめぐる一人芝居『告白』を演じさせようとする―という設定の戯曲『中庭の出来事』を執筆中の劇作家がいて…。虚と実、内と外がめまぐるしく反転する眩惑の迷宮。

■感想
パーティ中に発生した人気脚本家の死。それをめぐる演技が行われているのだが、どこまでが演技でどこからが本編なのか。作品としてはっきりと描き分けはされているのだが、視点が次々と変わり、何人もの登場人物たちを整理できなければ、理解不能に陥ることだろう。警察が事件の真相をさぐろうと、三人の女優に演技をさせるのだが、そこに大きな秘密を感じることができなかった。演劇に対してのある程度の知識と、シェイクスピアの古典などに精通していないと楽しめないのだろうか。ミステリ的なトリックに対する驚きは少ないが、物語の複雑さで読者を煙に巻いているような気がしてならない。

三人の女優がエッセンスだけを残し、あとは自分たちでアレンジしまったく同じ役を演じる。演じ手によって大きく変わる印象。確かに、三人の女優により演じられる雰囲気というのは大きく違う。これが事件にどのように影響を与えているのか。作中に登場する様々な不思議な出来事の意味は?人の見方によって、様々な見方ができるという意味なのだろうが、それがどのように事件に活かされているかがよくわからなかった。不思議な話自体は非常に興味深く、複数の人から目撃された女性が、怒りと悲しみと喜びを同時に表していたというのは、かなり引きつけられる話だ。

物語をどれだけ整理し、内と外を読み分けることができるかが、本作を楽しめるポイントだろう。単純に中庭で起こった事件を描いているのではなく、外堀を埋めるように周りから徐々にヒントが散りばめてある。サブリミナル効果のように、大きい意味で関係のある逸話を挟み込み、結末へ向かうにつれテンションを高めていく。そのあたりのうまさは感じたのだが、あまりに複雑すぎて、ミステリを読み慣れていない人には辛いのではないだろうか。どこまでが真実でどこからが演技の一部なのか。それを見破るというのが本作のポイントの一つだが、それを読者にまで求められているような気がした。

かなり難解だが、しっかりと理解できれば楽しめる作品だ。




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