ボトルネック 米澤穂信


2013.11.14    ファンタジーかと思いきや 【ボトルネック】

                     
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■ヒトコト感想

少年リョウは、気がつくと自分のいない世界へいた。そして、そこにはリョウではない、サキがいた。ファンタジーあふれるパラレルワールド的な作品かと思いきや、青春特融の少年の悩みや苦しみが語られている。リョウが紛れ込んだ世界の住人が、リョウに対して意味深な言葉をつぶやけば、それはパラレルワールドの何かしらの仕掛けかと深読みしてしまう。が、実はなんてことない、ただの人間性の問題だったりと、思いのほか現実路線で驚いた。

別の世界の違和感はあるが、そこのキャラクターたちは当たり前の生活を続ける。自分を卑下し、別の世界で幸せに暮らす人々を見て苦悩する。仕掛けがありそうな雰囲気がプンプンしていただけに、肩透かしをくらったような感じだ。

■ストーリー

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

■感想
リョウが紛れ込んだ世界は、リョウとは別の明るく活発な少女サキがいた。自分が存在しない別の世界では、家族円満、周りの人々も幸せに暮らしている。対して自分がいた世界は…。パラレルワールドに迷いこんだ少年の物語だが、ファンタジーはその部分だけだ。それ以外はひどく現実的だ。

手持ちの金がなくて困るリョウ。物語としてそのあたりがかなり強調されている。自分が存在しない、戸籍も家もない。そんな世界で生きていくのはとても困難なことだ。リョウがつきつけられた状況は非常に厳しいが、サキとうい理解者がいるだけに多少救われている。

物語の雰囲気は北村薫の「スキップ」に近いように感じられた。パラレルワールドの世界で、意味深な言葉をつぶやくキャラクターが存在する。リュオの世界で死んだはずのノゾミとの再会。怪しげな行動をとるノゾミの従妹。パラレルワールドの仕掛けに気づいたような雰囲気すらある。

それら伏線的なものを勝手に深読みし、どのようなオチがあるかと楽しみにしていたが、思いのほか何もない。リョウが別の世界の幸せな状況に困惑し、自分の存在意義に疑問をもつという物語だ。

青春時代の青臭さというか、自分はなぜこうなのか?自分がいなければよかった。なんてことは誰もが考えることだろう。自分が存在しない、より良い世界を目の前に突き付けられたら、誰もがリョウのような気持ちになってしまうだろう。ファンタジックな救いがあることを期待したが、それがない。

なぜリョウがパラレルワールドに迷い込んだか、ラストにしっかりと描かれてはいるが、納得はできない。自分のいない世界というパラレルワールドは面白いのだが、そこから仕掛けが何もないのはちょっとインパクトに欠けるかもしれない。

序盤のワクワク感はそうとうなものだ。



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