2012.8.15 世間知らずの凄腕剣士 【ブラッド・スクーパ】
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■ヒトコト感想
「ヴォイド・シェイパ」から続く物語。刀ひとつで生きていくゼン。用心棒としての仕事をすることになるのだが、そこで様々な剣士たちとの戦いをくり広げる。このシリーズは剣の戦いの描写がすばらしい。もともと作者の冷めた文体というのが、剣の戦いを表現するのに合っているのだろう。ただ事実のみを淡々と語る。一瞬の剣の動きを、サラリと描くのは、余計な描写がなく変に誇張されていないだけに、冷たさの中に、シンプルな剣の動きが表現されている。ゼンがキャラクターとして、人間味のないロボットのようなキャラであるのは前作どおり。この世間知らずな感じは、剣の達人という要素にぴったりとはまり込む。人情味あふれる凄腕剣士よりも、残酷で冷たい剣士の方がイメージに合う。
■ストーリー
立ち寄った村で用心棒を乞われるゼン。気乗りせず、一度は断る彼だったが……。若き侍はなにゆえに剣を抜くのか? シリーズ2作目。
■感想
凄腕だが世間知らずで、生まれたての赤ん坊のような疑問を持ち続けるゼン。戦うことに対して、躊躇しつつも、戦いとなれば容赦なく相手の急所を狙いすます。ゼンが旅した先で、用心棒として雇われるのだが、そこからは、お決まりどおり剣の対決が待っている。今回は三人の剣士と戦うことになるのだが、それらは、ゼンの圧倒的勝利というのはなく、どれもゼンと同等かもしくははるかに格上の相手ということになる。ギリギリ瀬戸際での戦いに勝利し、成長していくゼン。冷たい剣の描写というのは、相変わらずしびれる緊迫感がある。
ゼンにその気がなくとも、女たちはゼンに引かれていく。本人に自覚がないが、女が寄ってくる凄腕の剣士。なおかつ世間知らずとなれば、キャラクターとしてはある程度完成されている。その中で、手ごわい相手や、凄腕だがその実力を隠し生活する侍など、ゼンと対決する相手はバラエティに富んでいる。そんな中で、強烈なインパクトがあるのは、やはり一瞬で勝負がつく真剣での勝負ならでわのあっけなさだ。漫画的に、瞬間的に叫んだり誇張された表現がなく、ただ出来事だけを冷たく表現する。この描き方が剣での対決にぴったりとはまり込んでいる。
最後は物語として、哲学的な流れに若干なるのは前作と同様だ。ゼンが戦うたびに強くなり、すんでのところで戦いに勝てた理由が語られる。一瞬の勝負の緊張感というのを表現している本作だけに、強くなる過程にも、それなりのこだわりがある。ゼンの前に現れる強敵たちは、ゼンの腕を知りながら勝てると判断し戦いを挑む。なぜ負けたかわからないと答えた侍の言葉が、一番真剣での戦いを端的に表現しているような気がした。前作ほどまどろっこしさがなく、対決に重点をおいた作品だ。
このシリーズの戦いの描写には、毎回しびれてしまう。
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