Another エピソードS 綾辻行人


2013.11.25    幽霊が自分の死体を探す? 【Another エピソードS】

                     
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■ヒトコト感想

Another」の外伝的作品。Anotherが、いるはずのない人物を幽霊的なモノとして扱っていたので、本作にもそのあたりの記述があっても違和感なく受け入れてしまう。冒頭から幽霊目線で物語が始まる。自分が死んだ原因がわからず、それを探ろうとする賢木。なぜか鳴だけが賢木の姿を見ることができる。

幽霊としての賢木がどのようにして自分が死んだ原因を突き止めるのか。死体が消え去ったということも大きなヒントとなる。賢木は誰かに殺されたのか、それとも自殺なのか。奇妙といえば奇妙だが、ありがちな物語だ。Anotherでの呪いを引き継ぐように、何か超常現象が起こっているのではないかと思えてくる。鳴が左目だけで賢木の姿が見えるというのがひとつのポイントだ。

■ストーリー

1998年、夏休み―両親とともに海辺の別荘へやってきた見崎鳴、15歳。そこで出会ったのは、かつて鳴と同じ夜見山北中学の三年三組で不可思議な「現象」を経験した青年・賢木晃也の幽霊、だった。謎めいた古い屋敷を舞台に―死の前後の記憶を失い、消えたみずからの死体を探しつづけている幽霊と鳴の、奇妙な秘密の冒険が始まるのだが…。

■感想
賢木は幽霊となり、自分が存在しない世界を見る。現実の世界では、賢木は長期の旅行に行ったことになっている。となると、関係者による殺人で賢木の死は隠ぺいされているという流れがある。賢木が幽霊となり自分の死の原因と死体を探す。

その過程で、偶然出会った鳴が、自分の姿が見ることができるとわかると、二人は協力関係となる。物語としてこんなパターンはありがちだ。それを逆手にとって、死体探しの物語に仕上げている。そのため、幽霊となった賢木が神出鬼没なことにはまったく説明がなく、幽霊としてなんでもありなキャラとなっている。

賢木の制限事項としては、好きな時に好きな場所に出られるというわけではないことだ。実はこれが大きなポイントだと後に気づくことになる。幽霊ならばオールマイティだろうと思えてしまう。石田衣良の「エンジェル」は、まさに幽霊が主人公で、人間と闘ったりもする。そのパターンかと思いきや、大きな仕掛けがある。

鳴だけが賢木の姿を見ることができる不思議。それを鳴の特殊能力として納得してしまうのか、それとも別の理由だと怪しむのか。作者の仕掛けに気づく人は、ほとんどいないだろう。

幽霊である賢木と鳴の奇妙な冒険は、驚きのオチによって結末を迎える。「Another」の流れを想像していると、かなり驚かされることだろう。呪いや超常現象の類ではない。ひどく現実的で、仕掛けに納得せずにはいられない。幽霊の賢木が、誰も入れないはずの地下室へ入り込む。それは、幽霊なのだから当たり前だろう。

賢木は幽霊だという先入観を植え付け、その先に大きな仕掛けを用意する。作者の仕掛けのうまさに、驚かずにはいられない。幽霊は最初から存在しないというスタンスで読めば、もしかしたら仕掛けに気づくかもしれない。

「Another」の流れに引きずられると、作者の策略にまんまとはまることになる。



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