Another 綾辻行人


2013.5.7      存在してはいけない誰か 【Another】

                     
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■ヒトコト感想

過去のある事件から現在へ、3年3組にまつわる呪いの物語だ。ミステリーとして呪いという不可解な現象に対して、科学的なアプローチから解明するたぐいの物語ではない。転校してきた恒一が、呪いの奇妙さに驚き、そしてクラス内で蔓延する特殊な儀式に戸惑う物語だろう。

呪いは呪いとして存在する前提の話となる本作。都合よく呪いの元凶は、すべてが終わった後には記憶から記述まですべてが消え去ってしまう。唯一残った手がかりをたよりに、クラスにかかった呪いを説く方法を模索する恒一。ミステリーとしての面白さは、やはり呪いの元凶の存在だろう。いるはずのない人物が、すべてを巻き起こす。誰がいるはずのない存在なのか。結末は、驚かずにはいられない。

■ストーリー

その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。

■感想
転校してきた恒一が、まず最初に面食らうのは、クラスの中に”いない存在”のクラスメイトがいることだ。そのいない存在のメイという人物が、これまた謎に満ちており、いかにもいわくありげな雰囲気を醸し出している。この段階で読者は、メイが本当に存在しているのか。

恒一にだけ見えているのではないかと疑問をもつ。その疑問を補完するように、様々な状況がつむぎだされ、メイの存在の危うさが強調されている。ミステリアスな流れの中で、メイという眼帯をした少女は、自分の頭の中ではエヴァの綾波を連想してしまった。

クラスにまつわる呪い。それを排除するためには…。なんだかかなり無理やり感のあるストーリーだが、それを貫き通されると、自然と受け入れてしまうから不思議だ。呪いを解かなければ、クラスの関係者が毎月ひとりづつ死んでしまう。

過去の歴史を紐解き、呪いが始まった起源と、回避策を探す恒一。現実的ではないが、この不思議なストーリーにそのままどっぷりと浸かってしまうと、何もかも真実のように思えてしまう。微かなヒントを頼りに、呪いを説く方法を探す部分は、まさにミステリーの謎解きに近いかもしれない。

物語は、呪いの元凶を探すフェーズへと移っていく。その段階で、おぼろげながらに結末は見えてくるのだが、呪いの元凶には驚かずにはいられない。作者の巧みな仕掛けと、それまでの伏線から、まさかという思いしかない。

クラスの中でひとりだけ異質な存在が、呪いの元凶のはずだという先入観。だとすると、メイかもしくは、恒一自身が呪いの元凶なのではと深読みしてしまう。それらすべてを裏切る形のオチはすばらしい。よく考えれば、確かに不自然な部分はあるが、それに気づかせないうまさがある。

呪いをベースとした物語だけに、物語に入り込めるかがポイントだ。



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