エンジェル 石田衣良


2009.11.21  幽霊対人間の奇妙な対決 【エンジェル】

                     
■ヒトコト感想
父親との縁を切るかわりに、十億もの資産を手に入れ、投資会社のオーナーとなった純一。いきなり冒頭は、純一の死体から始まる。純一が記憶を失った状態で幽霊となる。自分の生まれた瞬間にフラッシュバックする純一は死の原因を探ろうとする。冒頭のつかみはかなりのもので、引き付けられること間違いなしだ。生前の純一の生活スタイルや環境が明らかになってくると、さらにきな臭さは増してくる。いったい誰が何のために純一を始末したのか。中盤から後半にかけては、幽霊となった純一と現実を生きる宮田コーポレーションの面々との戦いになる。なんだか、純一の死の原因よりも、別のところを重点的に表現したいようだ。実際の心霊現象を純一を使ってうまく説明しているのはよかったが、後半は微妙だった。

■ストーリー

投資会社のオーナー掛井純一は、何者かに殺され、幽霊となって甦った。死の直前の二年分の記憶を失っていた彼は、真相を探るため、ある新作映画への不可解な金の流れを追いはじめる。映画界の巨匠と敏腕プロデューサー、彼らを裏で操る謎の男たち。そして、一目で魅せられた女優との意外な過去。複雑に交錯する線が一本につながった時、死者の「生」を賭けた、究極の選択が待っていた―。

■感想
現実に起こる心霊現象をすべて純一の目線から、さも合理的に説明している。幽霊となった純一にとってすべてが思い通りになるかと思いきや、現実世界にはそう簡単に手を出すことはできない。自分の死の真相を探るというミステリーは良かったのだが、真相が見えてくると、とたんにテンションが下がってくる。かわりに幽霊となった純一がどのようにして、現実を生きる宮田たちと対決していくか、そのあたりがメインとなってくる。幽霊対人間。普通に考えれば幽霊の圧勝のような気がするが、本作はそうはならなかった。

幽霊が登場し、自分に何も危害を加えることができず、ただ脅かすだけとわかっても、怖いものは怖いはずだ。それを宮田コーポレーションの宮田と藤井は、幽霊と対決しようとする。まず、この心境がわからなかった。幽霊となった純一が、自分の愛する人を宮田たちから守るために四苦八苦している。もっとうまくやれば、純一の圧倒的勝利のはずなのに、もどかしいほど純一はうまくできない。幽霊が現実を生きる人間に手出しできず右往左往するパターンなど、まったく想像できなかった。

ラストには、純一の死の真相が明らかとなる。割と想像どおりというか、大どんでん返しはなかった。霊となった純一がこの世にいる意味があるのか。純一の最後の行動は納得できるものであったが、つくづく不遇な人生だなぁという印象ばかりが強く残った。現実を生きているときも、どこか流されて生活し、霊となっても現実の人間に四苦八苦し、自分の死の真相を知って衝撃を受ける。霊となったからには、もっとオールマイティにすべてのことができても良いのではないか。幽霊が現実の人間に脅されるなど、ありえないことだ。それらを含めて純一のキャラクターにはマッチしているのかもしれない。

幽霊も万能ではないのか…。



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