あの頃の誰か 東野圭吾


2011.6.20  ギャグっぽいバブル描写 【あの頃の誰か】

                     
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■ヒトコト感想
作者のお蔵入り短編を寄せ集めたようなかたちの本作。あとがきであるように、何かしらの理由からお蔵入りになったのだろう。バブル全盛期の話や、名作「秘密」の元ネタなど、作者らしいといえば作者らしいが、それはベストセラー作家としてではなく、昔の東野圭吾作品としてだ。特徴はとくになく、どこにでもあるありきたりなミステリー。最近のガリレオシリーズや、加賀シリーズなどでファンになった人には意外に思うかもしれないが、本作のような短編が、まさに昔の東野圭吾の短編なのだ。ただ、読みやすい文体は昔からなので、読んでいて辛くはない。オーソドックスでさらりと読めるのだが、インパクトがない。この感覚は「ウィンクに乾杯」を読んだときと同じ感覚かもしれない。

■ストーリー

メッシー、アッシー、ミツグ君、長方形の箱のような携帯電話、クリスマスイブのホテル争奪戦。あの頃、誰もが騒がしくも華やかな好景気に躍っていました。時が経ち、歳を取った今こそ振り返ってみませんか。

■感想
今読むと、ギャグではないかと思えるほど、バブル時代の描写はおもしろすぎる。ミステリーを面白おかしく茶化す作者だけに、一瞬、あえて今、バブルの描写をギャグとして描いたのかと思わせるほど、かなり考えられたバブルの描写だ。当時は間違いなく、本作の描写をくそまじめに描いていたのだろう。まさか、20年後にそれらすべてがギャグとしてとらえられるとは、作者ですら予想できなかったのだろう。おそらく当時、リアルタイムに読んでいれば、なんてことない作品で終わっていたが、今読むことに若干価値があるのかもしれない。

バブル系以外にも、あの名作「秘密」の元ネタとなった短編がある。当然、短編なので秘密には足元にも及ばないが、すべてのエッセンスがつまっている。短編としてはたいしたことないのに、長編になるとこうも印象が変わるのかと、逆に驚いてしまった。そして、面白さのポイントが娘と父親の駆け引きにあるのだなぁとあらためて感じた。短編としてインパクトがない作品であっても、大化けする可能性はあるということなのだろう。村上春樹などはこのパターンで短編と長編両方だすことがある。

今の作者を連想させるようなミステリーの仕掛けもある。短編でなんのひねりもなくすんなりと終わるミステリーもあれば、ラストに少しだけオマケがあり、余韻を残すというパターンもある。特別短編として印象に残るようなものではないが、心地良いすっきり感がある。長編と違って、気合を入れて長時間読む必要がなく、通勤時間だけで読み終わってしまうような短編もある。最近の作品しか知らないファンは、読んでみるのもいいかもしれない。逆に新鮮に感じる可能性はある。

バブルの描写は、まったく信じられないことだが、真実だから恐ろしい。



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