おそろし 宮部みゆき


2010.8.16  タイトルどおりおそろしい 【おそろし】

                     
■ヒトコト感想
おちかが聞く不思議な話の数々はオカルト風味満載だ。タイトルどおり、おそろしいものがメインとなっている。おかちが心を閉ざした原因となった事件とはいったい何なのか。物語が進むにつれ、おかちの周辺に起こった事件の全容が明らかになっていく。おかちが聞く話は段々と怖さがグレードアップしていく。最初はただの勘違いで済ませられそうな話だったのが、最終的にはおかちの関係者までもが深く関わっていく。極めつけは、蔵に吸い込まれていくように人が消えていく話だ。おかちの心の奥底にある闇を照らしながら、おかちの心を溶かしていく。多少強引な部分もあるが、現代が舞台ではないということで、この時代ならではの恐怖感がにじみ出ている。

■ストーリー

ある事件を境に心を閉ざしてしまった17歳のおちかは、江戸の神田三島町で袋物を商う叔父夫婦のもとに預けられる。裏庭の片隅にひっそりと曼珠沙華のひと群れが咲く秋のある日、叔父・伊兵衛は、おちかに来客の対応をまかせて出かけてしまう。来客の相手をすることになったおちかは、曼珠沙華の花を怖れる客の話に次第に引き込まれていく。そして、伊兵衛の計らいで次々に訪れる人々のふしぎ話は、おちかの心を溶かし、やがて彼女をめぐって起こった事件も明らかに…。

■感想
作者の時代物はかなり読んだが、雰囲気は京極夏彦に近いかもしれない。ジワジワと増していく恐怖感。おかちが心の奥底に秘めた事件とは何なのか。おかちが聞く不思議な話とどういった関係があるのか。最初はぶつ切りであった話が、最後には一つにまとまっていく。理論的で現実的な答えをだすわけではなく、オカルトが答えとなっている。ミステリー的な物語ではないので、おそろしい物語として、この結末は十分にありだろう。この時代だからこそ成り立つ問題をベースとした物語。時代物だからうまくいっている。

おそろしい話の中でも、いわく付きの鍵の話は強烈なインパクトがある。鍵が不幸を呼び込み、謎の番頭や女中が現れる。大金を手にする代わりに危険な香り漂う屋敷に住まなければならない。金の価値の違いや、人を飲み込む蔵など、ひきつけられる要素は多数ある。人の怨念か何かなのか。それとも自然発生的な何かなのか。おかちが関わった人々すべてに影響する強い力。おかちの目を通して感じる物語は、不思議な現象を解き明かすよりも、消化し受け入れる流れとなっている。

おかち自身に何か特殊な力があるわけではない。人の話をしっかりと聞くという能力はあるにせよ、そこに特殊な能力はない。オカルト的な奇妙な出来事をおかちが解決するというのではなく、おかちが巻き込まれる形で物語が大きく変わっていく。人と人との繋がり、身分の違いなどによって生じる不幸。物語は些細なことから大きな不幸を呼び込むことになる。おかちの経験した衝撃的な事件を読むと、それまでのおそろしい話がすべて吹っ飛んでしまうほどのインパクトがある。

作者の時代物の中では、かなり読みやすい部類に入るだろう。



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