相田家のグッドバイ 森博嗣


2012.9.17    これは森博嗣の家族か? 【相田家のグッドバイ】

                     
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■ヒトコト感想

家族小説だが、どうしても作者の私小説のように感じてしまう。おそらく作者のファンであるならば、だれでも同じイメージをもつだろう。作中の息子はそのまま作者であり、国立大学の助教授となり、その後、作家として大成する。一部フィクションが含まれているにしても、息子の思考原理はまさに作者の考えそのもののように思えてしまう。合理的で無駄がなく、わずらわしい人間的思いやりの薄い、人によっては冷酷人間と感じかねない性格だ。それらは両親の影響らしい。実際に作者の両親も同じような性格なのか。知られざる作者のプライベートな部分を覗き見しているような気分となり、家族のゆくすえが気になる構成になっている。

■ストーリー

普通の家庭だったけれど、ちょっと変わった両親。最後に息子がしたことは破壊だったか、それとも供養だったのか?さよならだけが現実だ。血は争われない。森博嗣の家族小説。

■感想
作者のファンならば、誰もが思うことは、「これは作者の私小説か?」ということだ。今までの情報を総合すると、本作の主人公である相田家の息子は、森博嗣としか思えない。理系的な思考というか、何に対しても無駄なことはやりたがらない。究極としては、父親が死んだとしても墓がなく、遺骨は海にまいたということだ。あまりの合理性に若干引いてしまうが、それらはすべて同じように合理的な性格をもつ父親の影響らしい。作者の今までの言動や考え方を読むと、どうしても、作者自身が本作の主人公としか思えない。

父親は超合理主義者であり、母親は異常なまでの収集癖がある。家中収納で一杯になり、人が住むことすらできなくなる。若干、このあたりはフィクションぽさを感じるが、それでも作者の両親だったら、ありえなくないと思えてしまう。少し変わった両親の元で育てられた男。その形が、まさに本作を描いている作者そのもののような気がした。大学で助教授として仕事をする傍らで、趣味に没頭する。工作好きというのもそのままだ。もしかしたら、主人公の性格や趣味だけを作者自身に見立てただけで、その他はまったくのフィクションかもしれないが、非常に気になる構成であることは間違いない。

家族小説として読むと、特別なオチがあるわけではない。それでも、家族のありかたというか、普通ではない家族だが、それなりに幸せなのだと感じることができる。絵に描いたような理想の家族ではない。年老いて無気力となった父親や、変わった考え方をもつ母親。重松清が描いたならば、こうはならない。作者だからこそ描けた作品かもしれない。作者の文体が、客観的事実を冷めた言葉で描く感じなので、辛い状況であっても、淡々とした空気観を感じることができる。

作者の私小説とすら思えてしまうほど、変にリアルで面白い。



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