夢見る黄金地球儀 海堂尊


2010.6.10  爽快感がイマイチなコンゲーム 【夢見る黄金地球儀】

                     
■ヒトコト感想
舞台は桜宮市。いつもどおり作者の作品は微妙に繋がっている。本作でもバチスタシリーズの登場人物があちこちに顔をだし、エピソードも登場している。ただ、本作が決定的に違うのは、まったく医療とは関係ないということだ。現代医療システムの問題を叫ぶでもなく、最新医療を扱ったトリックでもない。ただ、黄金の地球儀を盗み出そうという作品だ。その中で町工場の最新設備や、金属に対しての薀蓄など今までと違った雰囲気があるのだが、あまり魅力を感じなかった。騙し騙されのコンゲームという触れ込みだったが、蓋を開けてみるとたいした驚きもなければ、爽快感もない。なんだか身内だけでごちゃごちゃ事件を起こし、勝手に解決しているように感じた。

■ストーリー

1988年、桜宮市に舞い込んだ「ふるさと創生一億円」は、迷走の末『黄金地球儀』となった。四半世紀の後、投げやりに水族館に転がされたその地球儀を強奪せんとする不届き者が現れわる。物理学者の夢をあきらめ家業の町工場を手伝う俺と、8年ぶりに現われた悪友・ガラスのジョー。二転三転する計画の行方は?

■感想
物理学者を目指した男が主人公ということで、今までの医療関係とはまったく違った作品となっている。町工場のマシン紹介から始まり、宇宙空間に溶鉱炉を持ち込んで、常識はずれなモノを作ろうとする。確かに今までと違った新鮮さはあるが、特別な魅力は感じない。黄金の地球儀をどのようにして盗み出すか。数々の仕掛けや知恵を使って乗り越えるのかと思いきや、誰もが考える方法で地球儀を盗もうとする。この手のトリックは普通で、新しさもない。ただ、コンゲームとして、上手をいく存在があり、うまくやったと思ったら、さらに上手がいたという流れは感じることができた。

黄金の地球儀を盗みだす動機もなんだか不明確で、最後にチラっと説明されたが、納得はできない。どうも、すべての謎に対しての解答が後付のように感じられて仕方がない。盗んだと思ったらすでに先客がいたなんてことは、別に驚くべきことでもない。黄金地球儀のセキュリティに対しての話も特別な魅力もない。町工場にあるふざけたネーミングの工作機械なども、リアリティを感じられなかった。この手の町工場系は高村薫がすばらしい描写をしているので、それらには到底勝てていない。

シリーズの登場人物たちの存在が、かすかに面白さを引き出してはいるが、それは熱狂的な読者限定の話だろう。作者の作品を初めて本作で読んだとしたら、なんてことなく平凡で、特別印象に残ることのない、ただ読んですぐに忘れ去られる作品となってしまうだろう。医療系のような鋭い突っ込みや、既存システムの問題点を声高に叫ぶような熱さがない。登場キャラクターたちと同様に、すべてがお気楽で真剣さが足りないような印象ばかりが残った。

やはり作者にも得意、不得意というのがあるのだろう。



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