チームバチスタの栄光 上 海堂尊


2008.10.2  専門用語の難しさもなんのその 【チームバチスタの栄光 上】

                     
■ヒトコト感想
映画版を見て思ったのは映像として見せられる手術シーンはとてもインパクトがあるということだ。その部分は小説では抗いようのない部分かもしれない。人の体の中を映し出すリアルな映像。心臓が鼓動を取り戻す瞬間の緊迫感というのも映画版は良くできていた。それ以外はすべて本作の方が優れている。まだ上巻という関係上、主要キャラクターがすべてそろっているわけではないのだが、ミステリーとしてのわくわくどきどき感はかなりのものがある。完璧な手術中に起こった術死。いったいその原因はなんなのか。調査する田口と同じ目線で真相を探る。結末を知らなければ、より楽しめたことだろう。キャラクターの個性も際立っており、専門用語の難しさを忘れさせるほど熱中してしまう作品だ。

■ストーリー

東城大学医学部付属病院の“チーム・バチスタ”は心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の天才外科チーム。ところが原因不明の連続術中死が発生。高階病院長は万年講師で不定愁訴外来の田口医師に内部調査を依頼する。医療過誤死か殺人か。田口の聞き取り調査が始まった。

■感想
バチスタ手術の描写を文章で書かれてもなかなかイメージしづらい。しかし、その点は先に映画を見ているだけに、頭の中では映画の映像が思い浮かんでいる。それと共に、登場人物の顔も映画の配役がそのまま頭の中に思い浮かんでしまった。これは良い面もあるが、余計な固定観念を植え付けられてしまった部分もある。主役の性別が異なると、印象も変わる。田口が男性から女性へと変わった映画版に比べて、本作はより昼行灯の様相が強い。そんな田口が事件を解決へ導けるのか、上巻ではまったく想像することができない。

主人公である田口がバリバリのエリート医師でないのも、本作のハードルを下げている。相対する医師たちの専門用語を知識の乏しい田口の目線からわかりやすく語られることによって、まったくの素人であってもそれなりに知識がつくような気がしてくるから不思議だ。専門家しかわからない特殊な環境で起こった不可思議な現象を、一般人でも疑問をもつことなく、すんなりと受け入れさせるには、それなりの技術と文章力が必要だ。本作はその二つを十分あわせ持っている。

天才外科医である桐生やその他、バチスタチームの専門家たち。それぞれの医者としての能力の高さに比べると、田口の平凡さは物語の主人公としてのキャラクターは弱いように思えた。しかし、今後でてくるであろう濃いキャラクターたちの中で、他を浸食しない、無味無臭な雰囲気は、その他のキャラクターたちを活かすのにもってこいなのかもしれない。ただ、老人の愚痴を聞くだけの万年講師が、少しづつだが事件の真相へと近づいていく。名探偵でもなく、天才医師でもない。事件を解決するだけの特徴は何になるのか。それらも下巻で明らかになるのだろう。

映画よりも、ミステリーとしてのドキドキ感は強い。

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