夜のピクニック 恩田陸


2010.8.25  高校生たちの微妙な心理 【夜のピクニック】

                     
■ヒトコト感想
24時間かけて80キロを歩くという歩行祭。非日常の空間だからこそ起こる出来事。高校生のなんとも言えない複雑な気持ちを表現した作品だ。物語的には図書室の海で前夜の物語を短編として読んでいたので、すんなりと入り込むことができた。本作に登場する高校生たちは、男女問わずそれなりにモテている。男女間の微妙な距離感はイベントで一気に縮まる場合がある。甘酸っぱい恋愛小説ではなく、わりとディープな問題を密かに思い悩むあたりが良いのかもしれない。ベタな恋愛モノではない、ミステリーでもない。親友にも告げられなかった悩みを、非日常の空間の力を借りて告白する。高校生同士の微妙な心理の変化が手に取るようにわかる作品だ。

■ストーリー

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。学校生活の思い出や卒業後の夢などを語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。

■感想
徹夜で80キロ歩きとおす。その間、歩きながら仲の良い友達と話をする。高校生活の締めくくりとして普通に考えるならとんでもないイベントだが、本作の高校生たちは皆歩行祭を最後までやり遂げることに大きな意味があると語る。気の置けない仲間たちと夜道を話しながら歩く。これが高校最後ともなると、さらに盛り上がることだろう。辛く苦しい80キロもの道のりを歩き続けることができるのは、仲間の力があるからだろう。高校生らしい、青春の熱さというのはないが、なんだかうれしい気分になってくる。

登場する高校生たちが、美男美女ばかりというのは少し気になる部分だ。それなりに異性にモテ、恋愛経験もあり、告白されたりもする。これがなければ青春ものとして成り立たないのかもしれない。ただ、本作は良くある恋愛小説風なベタベタなものではない。好意を示すが、そこから発展することがない。相手の気持ちを微かに感じつつ、それに気付かないフリをしながら歩き続ける。この付かず離れずの微妙な距離感が心地良いのかもしれない。歩行祭という夜中に異性と並んで歩くという、テンションの上がるイベントでの高揚感を微かに感じる程度だ。

貴子が歩行祭前に考えた賭け。貴子の出自に関わる問題が影響している。よく考えればかなり強烈な環境ではあるが、貴子は変に捻くれることなく真っ当な高校生活を送っている。物語全体を通してやけに爽やかな印象を受けるのは、登場人物たちの素直さやまっすぐさのためだろう。陰鬱な事件やインパクトのある出来事が起きるわけではない。爽やかな高校生たちが、ただ会話をしながら夜中歩くだけの物語が面白く感じるのは、作者の筆力なのだろう。登場人物たちとは似ても似つかないが、高校時代に戻りたいと思ってしまった。

こんな青春時代をすごせたら楽しかっただろう。



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