図書室の海 恩田陸


2010.7.28  夜のピクニックへの期待感 【図書室の海】

                     
■ヒトコト感想
長編の番外編や前日譚などが収録された短編集。短編のためサラリと読めるが、印象に残りづらい。そんな中でも強烈なインパクトを残す作品はある。「六番目の小夜子」をすでに読んでいるが、表題作である図書室の海が特別インパクトがあるとは思わなかった。仮に六番目の小夜子を読んでいなかったとしたら、また違った感想をもったかもしれない。そう言った意味では「夜のピクニック」は未読なので、「ピクニックの準備」は気になる流れであり、長編が楽しみになるような作りだ。短編集として特別な括りがあるわけではないが、全体として不思議な話がまとめられている。この作者は、SFモノも意外に良いのだなぁと思った。

■ストーリー

あたしは主人公にはなれない―。関根夏はそう思っていた。だが半年前の卒業式、夏はテニス部の先輩・志田から、秘密の使命を授かった。高校で代々語り継がれる“サヨコ”伝説に関わる使命を…。少女の一瞬のときめきを描く『六番目の小夜子』の番外篇(表題作)、『夜のピクニック』の前日譚「ピクニックの準備」など全10話。

■感想
ミステリーありSFあり、様々な短編が詰まった作品集。こういった短編集の場合、表題作が一番印象に残るはずだが、今回は違った。すでに長編を読んでいただけに、そう思ったのだろうか。「六番目の小夜子」の要素を取り入れてはいるが、そこまで面白さを感じることはなかった。それに比べると「夜のピクニック」の前日譚である「ピクニックの準備」はとても興味深かった。作品単体としては成り立っていないが、期待感としてはかなりのものがある。このキャラクターたちでこのイベントではいったいどんなことが起きるのか。気分は盛り上がってくる。

本作の中で最も印象に残っているのは「国境の南」だ。何か特別な仕掛けがあるわけではないが、何を考えているかわからない奇妙さと、喫茶店に足しげく通う客たちに少しづつ砒素入りの水を飲ませるという異常さ。目的がわからず、皆に好感を持たれるウェイトレスが長い年月をかけて行った犯罪。冒頭のキャラクター描写が印象的であり、古い喫茶店や、そこに通う常連たち。そして笑顔をふりまく店員などがはっきりと頭の中に思い浮かんだ。何でこんなに印象に残るのかわからないが、心にこびりついて離れなかった。

その他にもSFで印象深いものはいくつかある。「イサオ・オサリヴァンを捜して」や「オデュッセイア」など少し毛色が違うが、十分楽しめる作品だ。全体として不思議で奇妙な作品が集められている。バラバラな印象もあるがすべてを読み終わると、まとまりがあるように感じてしまう。短編ということでサラリと読め、通勤通学の短い時間でちょうど読み終わるような感じだ。恩田陸の入門編としては良いのかもしれないが、長編ほどの面白さはない。

長編を読む前の肩慣らしとしてはちょうど良いかもしれない。



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