柔らかな頬 下 桐野夏生


2009.12.15  この結末をどう感じるか 【柔らかな頬 下】

                     
■ヒトコト感想
消えた娘はどこへ行ったのか。誰がつれ去ったのか。上巻で起こった事件の解決編的位置づけであるはずの本作。しっかりとした結末を求めていたのだが、予想外の流れだった。いくつかの結末を用意しておきながら、そのどれが正解かというのは最後まで明かさない。誰が犯人かということを、人の夢という形で描いた本作。その中には、かなりレベルの高い結末もあったのだが、結局それもはっきりとした結末とはならない。人によってはかなりストレスの溜まる終わり方かもしれない。おそらく本作は最初から結末を描くつもりはなく、読者それぞれに想像させる形にしたかったのだろう。内海という強烈なキャラクターが思い浮かべた最後の夢が、かなり強烈だった。その結末でも良かったのではないかと思えた。

■ストーリー

野心家で強引な内海も、苦しみの渦中にあった。ガンで余命半年と宣告されたのだ。内海とカスミは、事件の関係者を訪ね歩く。残された時間のない内海は、真相とも妄想ともつかぬ夢を見始める。そして二人は、カスミの故郷に辿れ着いた。真実という名のゴールを追い続ける人間の強さと輝きを描き切った最高傑作。

■感想
カスミの内面を描いた上巻。そして、石山と内海の内面を描いた下巻。カスミの心が娘を失踪させたと思わせておきながら、下巻ではさまざまなパターンの結末を匂わせている。読者は誰が犯人かを必死で想像するだろう。それをあざ笑うかのように、夢という手段で結末をぼやかしている。石山の事件後の人生とカスミの人生。どれもひとつのきっかけから大きく壊れている。石山に感情移入するわけはなく、かといってカスミや森脇にそうなるはずもない。内海であっても、その壮絶な人生を考えると、なぜ最後にカスミを助けようとしたのか、一番理解できない登場人物でもあった。

本作の中でいくつか提示されている犯人のパターンの中で、特に印象に残っているのは、内海が最後に思い描いたパターンだ。まさかという思いが強い。これが本当に結末だったとしても、十分ミステリーとして成立していただろう。それをあえてせず、多種多様な結末を想像させる。もしかしたら作者の中で、どの結末が一番良いのか迷ったのだろうか。それとも、これほどいろいろなパターンが考えられたのだよ、ということをアピールしたかったのだろうか。ラストがはっきりしないだけに、人によっては消化不良に感じるかもしれない。

最後がはっきりとしないおかげで、カスミの思いが正しいのか間違っていたのか。石山の選択はどうだったのか、内海は…。すべてのキャラクターの行動に決着がついていない。そのため、内海の壮絶な最後がなんだか無性にやりきれない思いを感じてしまった。カスミであっても、事件に翻弄された人生を今後どのようにして軌道修正していくのか。石山にいたっては、もはや後戻りできない境地にまで達している。その他、事件にかかわった人々の思いをどう昇華したらよいのか。評価が分かれる終わり方であることは間違いない。

すっきりと一本道で答えをだしていたら、ここまで印象に残ることはないだろう。



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