上と外5 楔が抜ける時 恩田陸


2010.5.6  人を引き付けるクーデター 【上と外5 楔が抜ける時】

                     
■ヒトコト感想
緊迫した成人の儀式のカラクリが明らかとなる。生きるか死ぬかを賭けたゲームと、実はそうではないとわかった後では緊迫感は大きく違ってくる。錬の「儀式」に対する考え方と命を賭けた戦い。マヤ文明とどのような繋がりがあるのかは、「儀式」から読み取ることができない。迷路に迷い込んだ千華子とそれを探す錬。親たちのパートではマヤ文明との関係を匂わす出来事が発生する。国全体を揺るがす演説。その言葉には、何か人を揺さぶる力があるような気がした。残り一巻となってもまだ先は見えてこない。錬が命を賭けたゲームを乗り越え、生存の可能性を見せる反面、クーデターの結末をどうやってつけるのか。どことなく村上龍希望の国のエクソダスを思い出してしまった。

■ストーリー

革命新政府は「楔が抜けるまでこの状態は続く」と発表。が、この「楔」は何を意味するのか?賢と千鶴子はヘリコプターでの捜索を開始したが困難をきわめた。一方、練は勇気と機転で「儀式」を終え、すぐさま軟禁中の千華子のもとに向かうが…。その時、国全体をさらに揺るがす、とんでもないことが起こりつつあった。

■感想
「楔が抜ける時」というのがキーワードとなる本作。あちこちに登場するこの言葉の意味はなんなのか。マヤ文明とどのような関係があるのか。常識を超えた「儀式」を乗り越えた錬。兄妹そろって親と再会できるかと思いきや、千華子は地下迷宮をさまようこととなる。「楔が抜ける」までに千華子を助け出さなければならないハラハラドキドキ感。クーデターの結果、演説で叫ばれる崇高な理念。すべては「楔が抜ける時」にはっきりするのだろう。

子供たちのパートはサバイバル生活から始まり、アドベンチャーゲームからロールプレイングゲームへとシフトしていく。親たちのパートはクーデター軍からの脱出に始まり、国全体を揺るがす大きな力を感じさせる流れとなっている。子供たちの緊迫感あふれる流れと、親たちの周りの流れ。繋がっているようで微妙に繋がりは明らかとならない。キーワードは間違いなくマヤ文明なのだろうが、まだはっきりとした結論がでていない。千華子を見つけ出し、親たちと無事に再会できるのか。

希望の国のエクソダスという作品がある。本作の演説を読むと、とっさにその作品を思い出してしまった。若者が国の未来を憂い、行動を起こす。ただ、本作に限っては「楔が抜ける」や「マヤ文明」など気になる言葉がでてきており、単純なクーデターものというわけではないだろう。「儀式」を行う子供たちにしても、ある一箇所に集まりつつある人々にしても、何かある瞬間を待っているような気がする。それがおそらく第六巻で明らかになるのだろう。

錬と千華子の脱出劇よりもクーデターの結末の方に興味がうつってきた。

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