上と外6 みんなの国 恩田陸


2010.5.17  全6巻は続けて読むべき 【上と外6 みんなの国】

                     
■ヒトコト感想
5巻までに積み上げられた様々な疑問を一気に解決し、結末へと進む本作。次々とおとずれる危機の数々は、まるでアクション映画を見ているように、手に汗握る展開だ。ただ、前巻から盛り上がってきたテロの正体についてはサラリと流されている。マヤ文明との繋がりや、様々な伏線はすべて細かな説明がないまま終わっている。そのため、途中までのアクションや鬼気迫る状況は良かったのだが、終わりがやけにあっさりとしているように感じられた。生き残ったものたちの感動の再会や、ニコたちの「成人式」の意味など、それなりに描かれてはいるが、今までの積み重ねからすると、消化不良のように感じられた。結局なぞの遺跡やマヤの秘密というのは特別な意味を持たなかったのだろう。

■ストーリー

史上最悪の大地震と火山噴火で、練の恐怖の針は振り切れた。このまま押し潰され骨も砕け窒息するのか、千華子はいまどこにいるんだ、でも、もう何もかもが終りだ!次々、襲いかかる困難の果て、さらにこんなことが待ち受けているとは!神は二人を見捨てたのか!?兄妹は再会できるのか?そして家族は?息すらできない緊迫と感動の最終巻。

■感想
地下迷宮をさまよう千華子。千華子を探す錬とニコ。そこに突然発生した大地震と火山噴火。マヤ文明の技術によって予測し、テロの時期を合わせたと思われる流れ。ここまでマヤ文明とテロを引っぱっておきながら、肝心のテロ組織についてはほとんど描かれていない。そのため、クーデターが成功し、ニコたちの正体が明らかになったとしても、すっきりしない気分だ。ニコたちが命がけで挑んだ「成人式」についても、なんだかうやむやにされたような感じだ。

錬と千華子の脱出劇。これはまるで映画を見ているような気分だ。一つの危機がおとずれ、それをクリアしたかと思うと、また次の新たな危機がやってくる。一度は出会うことができた二人も、自然の猛威によって離れ離れにされてしまう。この危機の連続は、最終的にうまくいくとわかっていてもハラハラドキドキするものだ。ジャングルと遺跡という情景描写から、頭の中にはインディージョーンズのようなシーンを思い浮かべてしまった。もしかしたら、作者もそのあたりをイメージしていたのかもしれない。

結局なぞのクーデターや「成人式」、そしてマヤ文明との関係はどのようなものなのか。電子政府など言葉だけはすばらしいイメージを連想させるが、その中身ははっきりしない。現存する国のどこをイメージすればよいのか。まったく未知の国となると、想像しにくい。全六巻という壮大な物語も、終わってみれば子供たちのアクションばかりが頭の中に残っている。クーデターとの関係がはっきりしないまま、マヤ文明の秘密というのも特別な説明はなかった。

全6巻を続けて読むことに意味があるのだろう。



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