上と外2 緑の底 恩田陸


2010.4.24  ジャングルでの厳しいサバイバル 【上と外2 緑の底】

                     
■ヒトコト感想
1巻ではまだどのような展開となるかわからない導入部だったが、本作ではっきりと方向性が示された。ヘリからジャングルにふり落とされた錬と千華子のサバイバル物語であり、賢と千鶴子のテロリストたちからの脱出物語でもある。二つの場面が繰り返される本作。錬と千華子のサバイバル生活では、思わず自分がこの二人と同じ立場になったなら、いったいどうなってしまうだろうかと考えてしまった。蒸し暑さと、得体の知れない昆虫たちがうごめくジャングル。わずかな食料とちょっとしたサバイバル道具だけでどのようにして生き延びるのか。テレビ番組などでよくあるサバイバル生活を思い出すが、失敗すればその先には死しかないという状況での緊迫感が伝わってきた。

■ストーリー

G国で軍事クーデター勃発。楢崎練の帰りを待つ祖父ら家族は突然の報に不安を募らせた。一方、決起グループに隔離監視された賢と千鶴子は子供たちの無事をすべなく願った。その頃ヘリコプターから落下した練と千華子は密林を彷徨する。疲労困憊する中で二人が聞いた轟音。そこで見たものは!?

■感想
ヘリからふり落とされ、気付けば広大なジャングルの真っ只中。まずは生きるための準備と、ジャングルから助け出されるための用意をする。先が見えない状態での絶望感を感じさせつつも、物語は前向きに進んでいく。サバイバル生活の中で一番必要なことは希望を捨てないということなのだろう。助けがくるかもわからない状態の中、ただひたすら前に進み続ける。得体の知れない虫がうごめく中歩き続けるのは、千華子が思わず叫びだしたように、気持ち悪さで発狂してしまうかもしれない。

本作は1巻と同じく非常に短くサラリと読める作品となっている。さらにジャングルでのサバイバルパートとシティでのテロリストがらみのパートと二つに分かれているので、物語の進みも遅い。サバイバル生活から、何か別の生き物の雰囲気を感じ、マヤ文明の遺跡に関わる大きな秘密があるような伏線を残しつつ進んでいる。ジャングルの中からどうやって生還するのか、そして、テロリストから逃げ出し、無事息子たちを助け出すことができるのか。離れ離れになった親子の絆の強さを試しているような作品かもしれない。

ジャングル内部での壮絶なサバイバル生活は、もし自分がそうなったときの教科書的扱いになるような気もするが、おそらくその事態に直面すると何もできないだろう。ジャングル内部で遭難した場合の完全にリアルな描写とは思わない。しかし、雰囲気はリアルだ。叫びだしたい気持ち悪さに心が折れそうになる。本作を読んで、もし自分がジャングルで遭難したのならば、先が見えないことに、おそらくあっさりと諦めてしまうような気がした。

ジャングルでのサバイバルは強烈だ。

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