三月は深き紅の淵を 恩田陸


2010.5.31  本好きしか対応できない 【三月は深き紅の淵を】

                     
■ヒトコト感想
読書家たちの間で話題の謎の本。「三月は深き紅の淵を」という本をめぐる話が描かれているのだが…。どう言えばいいのだろうか。本作が幻の本であり、その内容を物語で補完しているのだろうか。1章ではどれだけ貴重で手に入らない幻の本かということを語り、2章では本の作者を探しだす旅が描かれ、3章ではどういった経緯で描かれたか語られているのだが…。肝心の4章はよくわからず、結局何が言いたいのかよくわからないまま終わっている。幻の本だということを幻の本の中で語っている。1章から4章までも一つの小説というテーマ以外はまったく共通点がない。作中で語られている幻の作品のように、ねっとりとした後に残る何かがあるわけでもない。なんだかよくわからない作品だ。

■ストーリー

鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に2泊3日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、10年以上探しても見つからない稀覯本(きこうぼん)「三月は深き紅の淵を」の話。たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。

■感想
まず第1章で、「三月は深き紅の淵を」という作品の希少性と、どれだけ魅力的な作品かということを描いている。ここまで作中の登場人物たちにべた褒めさせると、当然ハードルは上がってくる。後半になるにしたがって本作自体が「三月は…」だということに気付くと、1章で語られていたことが、ほとんど当てはまらないと感じてしまう。1章の時点ではどんな作品だろうという強い興味が湧いてきたが、それを実際に読まされていると気付いたとたんに、なんだか興味の風船があっという間にしぼんでしまった。

2章以降も、「三月は…」にまつわる話となっている。特に2章は現実に作品として存在しており、作者を探す旅が描かれている。ミステリー的な面白さというよりも、ストーリーがどういった方向へ進んでいくのかということにばかり興味がわいてきた。章と章の繋がりはまったくない。3章にいたってはそこだけを別の作者が何か強烈な思いをこめて描いたものとして説明されている。結局、2、3章はこの作品の中でほとんど意味をなしていないようにすら思えてきた。

一番重要であるはずの4章が混乱に拍車をかけている。章内で本作の仕組みを暴露しながらも、よくわからないストーリーが進んでいく。あえて混乱させるような流れにしているのだろう。入れ子になっていることに気付きながらも、読み進めていけば最後に何かあるのだろうと期待したが、結局何もなかった。もしかしたら、何かがあったのかもしれないが、気付くことができなかった。単純なミステリーというわけでもなく、かなり本好きしか対応できないような仕組みで描かれている。理解して楽しむにはかなりハードルは高くなるだろう。

この手の作品を革新的だと感じるかどうか…。



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