蒲公英草子 恩田陸


2010.9.14  連綿とつづく常野の物語 【蒲公英草子】

                     
■ヒトコト感想
常野物語シリーズ第2弾の本作。不思議な力を持った一族と出会った一人の女性目線で描かれている。光の帝国が一族の活躍を短編で描いたのに比べ、本作は一つの長編として一族に関わる人々の物語を描いている。常野一族が完全な主役というわけではなく、平和な日々を過ごしていた槇村家の面々と繋がる形で物語は進んでいく。どことなく宮部みゆきの歴史小説風な雰囲気を感じるが、常野の不思議な力によって何かが起こるのではなく、槇村家に関わる人々の暮らしの中で起こる出来事に、常野が関わっていくという感じだ。常野一辺倒ではなく、普通の人々のキャラクターがかなり濃いので、日々の生活描写が奇妙に面白く感じてしまった。ラストには不穏な空気を漂わせているが、安心して読める良作だ。

■ストーリー

青い田園が広がる東北の農村の旧家槙村家にあの一族が訪れた。他人の記憶や感情をそのまま受け入れるちから、未来を予知するちから…、不思議な能力を持つという常野一族。槙村家の末娘聡子様とお話相手の峰子の周りには、平和で優しさにあふれた空気が満ちていたが、20世紀という新しい時代が、何かを少しずつ変えていく。

■感想
不思議な力を持つ常野一族が大活躍する物語ではない。あくまでも語り部である峰子が見た世界が描かれている。そこには不思議だが、どこか暖かい常野の家族がおり、槇村家には仲の良い話し相手もいる。そんな幸せな農村に、様々な出来事が起こる。本作は槇村家が中心だ。槇村家に居候する様々な人々が、お互いの個性を活かし、物語に色を添える。村の人々も槇村家と関わり、物語を形作っていく。光の帝国と比べると常野の活躍が少ないので少し物足りなく感じるかもしれないが、なんでもない農村の日常に入り込むのもそれなりに楽しいものだ。

槇村家には個性豊かな居候たちがいる。常野一族ではないが、しっかりとキャラクターが確立されている。そのため、仮に常野一族がいなかったとしても、それなりに面白いものになっているような気がした。農村での槇村家の立場。病弱な末娘と友達になった峰子。不思議な力を匂わす描写や、過去から現代まで連綿と続く常野一族の伝説。光の帝国でのバックグラウンドがあったので、物語の奥行きを想像し、そこで何が起こっていたのかを思いながら読み進めることができた。

「遠目」という未来を見通す力や、人の記憶を「しまう」ということ。常野の力が未来の日本に大きく影響を与えるような描写があったかと思うと、作中の登場人物が純真無垢に家族を守るために命を投げ出すという描写などから、その後に起こる戦争を連想させたり。必ずしも明るい未来が待っているわけではないと暗示している。シリーズ第3弾があるようだが、本作のラストを読むと、かなりダークな内容になるような気がしてならない。できるならばもっとバリエーション豊かな常野一族が登場し、大活躍するような物語を読みたいものだ。

シリーズ第3弾には、否が応でも期待してしまう。



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