光の帝国-常野物語 恩田陸


2010.4.22  世界を守る知られざる人々 【光の帝国-常野物語】

                     
■ヒトコト感想
特殊な能力を持った者たちの物語。連作短編集となってはいるが、それぞれの短編に登場してくるのは違った能力をもった者たちだ。特殊な力をおおっぴらにできず、ひっそりと隠れて暮らす常野の人々。ある短編では一般人が感じた常野の力を描き、ある短編では自分の力に気付かない常野の人々を描く。その不思議な力を悪用されないため、集まることのなかった常野がラストの短編では一つに集まろうとする。何か大きな出来事が起こる前兆のように、物語は盛り上がってくる。特殊能力を持った者たちが集まるなんてのは、Xメンなどを連想してしまう。ビジュアル的なインパクトよりも、ひっそりとしているが、内面的な大きな力を示しているような気がした。

■ストーリー

膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への思向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。

■感想
”しまう”だとか、”裏返す”など独特の言い回しが多い本作。そこには何か特殊な能力を持つものだけに通じる不思議な雰囲気がある。予知能力や千里眼だけでなく、ありきたりな特殊能力の言葉では言いあらわせない力もある。いっけんすると、何の意味もないような能力が別の短編では重要なものとなる。それぞれの短編で常野の人々が苦しみ悩みながら日々の生活をおくる。ヒーロー的に特殊能力を使って悪役を倒すというのではなく、人知れずこの世の闇と戦うといったところだろうか。

一般人では見えない謎の草刈をする人々。草を刈らなければあとで取り返しのつかないことになる。現代にはびこる悪意を未然に刈り取るように、世間の人々が気付かないうちに常野の人々は世界を守っている。こんな人々がいれば心強いが、悪意の元凶ともいうべきものとの戦いは避けて通れないような気がした。特殊能力を持った集団を知らない一般人は、その能力を目の当たりにすると気持ち悪いと思い、利用してやろうと考えてしまう。そんな人間心理をよく理解した常野の人々の行動は、非常に理にかなっていると感じた。

このシリーズはまだ続くようだ。だとすると、中途半端に終わった短編の続きが描かれることだろう。夫を奪われた妻がどうやって夫を取り返すのか。常野の人々が、常野の中でもさらに特殊な力を複数持つ女の子のもとに集まり、何をしようというのか。明確な敵がまだ登場していないので、今後どうなっていくのかまったく想像つかない。それでも、特殊能力を駆使し人知れずひっそりと巨大な悪と戦い、世界を平和へと導いていくのだろう。

先が気になって仕方がない。



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