たぶん最後の御挨拶 東野圭吾


2010.4.12  東野圭吾のルーツを探る 【たぶん最後の御挨拶】

                     
■ヒトコト感想
作家東野圭吾のルーツというか、売れっ子作家になるまでの苦労が描かれている。まず最初に驚いたのは「秘密」がでるまでは不遇の時代をすごしていたということだ。秘密以前の作品でもすばらしい作品は多い。直木賞をとった今では、当たり前のように昔の作品も売れているが、当時はまったく鳴かず飛ばずだったのだろう。どんなに良い作品を書いたとしても、世間に注目されなければダメだということを作者自身もわかっているようだ。本作には、作家となるきっかけでもある乱歩賞受賞の経緯や、作家になってから仕事を辞めるなど、作家東野圭吾のルーツが描かれている。全体をとおしてエッセイとしての統一感はないが、東野圭吾ファンならば、はずせない作品だろう。

■ストーリー

打たれ弱かったら作家になんかなってない。下手なエッセイ書く暇あるなら、もっと小説書かんかい!文学賞落選記録15回!―「押し続けていれば壁はいつか動く」と信じ続けた20年の日々。

■感想
東野圭吾ファンならば、ぜひとも読んでおくべき作品だろう。今では閉鎖されているが、過去に公式ホームページに書かれていた作者自身の作品の感想や、好みの映画の話など。それ以外にも映像化された作品に対しての想いや、映像化にいたるまでの話など非常に興味深い部分が多々ある。コアなファンならば、ある程度知っている内容もあるかもしれない。それでも、作者が売れない時代からのエッセイまでも含めて一つの作品としているので、作者の心境の変化が手に取るようにわかる。特に賞レースにはとことん恵まれていなかった作者の愚痴というか嘆きというのが、よくあらわれているエッセイが多いような気がした。

本作にはデビューにいたるまでの道のりもエッセイとして書かれている。乱歩賞を受賞するまでと、受賞したあと。楽観的な考えではなかったにせよ、会社までも辞めてしまうというおもいっきりのよさ。一番の驚きは最初に応募した乱歩賞で、すぐに二次候補まで残っていたという事実だ。やはり作家になる人にはそれなりの才能というものがあり、いきなり原稿用紙に書き始めるというとんでもない創作方法をとったとしても、しっかりと結果がだせるのだろう。このあたりは、凡人とは違う部分だと思い知らされた。

作者自身はエッセイがへたくそだと言っている。確かに、夢はトリノ~などはたいして面白いとも感じなかったが、本作はそれなりに楽しめた。何よりファンにとっては、作品以外で作者の身近なことを知る機会はエッセイが一番適しているように思えるからだ。もうエッセイを書かないという宣言は、ファンには悲しむべきことなのだが、一つのエッセイを書くのに、連載小説を書くことと同じ労力を使うというのは、やはり本業(小説)に影響がでるのだろう。なんともいえないくだらなさが好きだったが、それが読めなくなるのは残念だ。

最後のご挨拶ということで、作家東野圭吾のルーツを知ることができる最後の作品になるのだろう。



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