世界は密室でできている 舞城王太郎


2010.11.6  強引すぎるミステリー 【世界は密室でできている】

                     
■ヒトコト感想
強引に密室のミステリーをつめこんだ作品。作者のシリーズらしく今までの作品に登場した”ルンババ12”という少年探偵が密室殺人を解き明かす。なんとなく初期の森博嗣のように、すべての作品がなんらかリンクしており、さらには裏でうごめく黒幕として、今までの作品の主役であった奈津川家が登場する。これはまるっきり森博嗣作品の真賀田四季と同じパターンだ。すべてが繋がっているように思わせ、読者にスケールの大きさを印象つける。強引な密室ミステリー以外の部分は非常に楽しめ、少年探偵たちの少年らしいふる舞いは面白い。独特な文体だけに癖はあるのだが、それに慣れれば福井弁も心地良く感じてしまう。相変わらずやりすぎなほどの残虐性はつきまとうので、それを受け入れられるかどうか…。

■ストーリー

十五歳の僕と十四歳にして名探偵のルンババは、家も隣の親友同士。中三の修学旅行で東京へ行った僕らは、風変わりな姉妹と知り合った。僕らの冒険はそこから始まる。地元の高校に進学し大学受験―そんな十代の折々に待ち受ける密室殺人事件の数々に、ルンババと僕は立ち向かう。

■感想
いくつかの密室ミステリーがメインの少年探偵モノ。ただ作中に登場する”ルンババ12”というのは舞城作品ではもうおなじみだろう。ルンババが解決する密室ミステリーは相変わらずとんでもない密室で、まったく現実感がない。現実に起こりえない事件が発生し、どこからその推理にいたるのかまったく説明されないまま、ルンババがあっさりとトリックを解く。よけいな部分を吹っ飛ばしてはいるが、あまりに都合が良すぎるのと、虚構だからといってやりすぎのようにも感じてしまう。ただ、作者の今までの作品を読んだ人なら、このあたりはおりこみづみなのだろう。

特別ミステリーにこだわりがなく、しょうがないからミステリーにしているようにも感じられる本作。密室トリックにしても、疑問を感じる前にあっさりと謎を解き明かしてしまう。その謎にしても、しょうもない現実感の薄いトリックだ。それらの強引なミステリー部分をのぞくと、小粋な青春物語に思えなくもない。福井の田舎者が困惑しながら周りに振り回される。独特な文章と、頭の中にこびりつくような福井弁の数々。物語として強引なところはあるが、それなりにストーリーはあり、最後はしっかりと締めている。

極上とまではいかないが、作者の特徴が良く出ている作品だ。スピード感あり、残虐描写あり、なんだかよくわからない複雑怪奇なトリックあり。そして、奈津川家の名前が登場したり。奈津川兄弟が登場しないだけまだマシなのかもしれないが、今後の作品すべてが奈津川家のエピソードを吸い尽くすような作品なのかと少し心配になってきた。続けて読む人にはそれなりにメリットはあるが、本作を最初に読んだ人など、とんでもなく特殊な作品と感じてしまうだろう。リスクはあるが、このチャレンジ精神は認めたい。

がっつりとミステリーが好きな人には向かない。作者の作品を受け入れられる人にだけ勧めたい。



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