煙か土か食い物 舞城王太郎


2010.10.25  強烈なインパクトを残すデビュー作 【煙か土か食い物】

                     
■ヒトコト感想
衝撃的な文体と、はちゃめちゃなキャラクター。正直ミステリーの部分はどうでもよい。小難しいトリックと暗号を駆使した謎。ミステリー要素に魅力はない。あるのは主人公である四郎の魅力溢れる家族たちの物語だ。四郎の一人称で語られる本作。そのキャラクター同様、めちゃくちゃな論理がまかり通っているが、それに惹かれてしまう。読みにくい文体ではあるが、スピード感抜群で、主人公のキャラクターに合っている。物語はとんでもない代物だが、四郎の家族それぞれの生き様を読んでいるだけで、ぐいぐいと引き込まれてしまう。ミステリーはオマケで、メインは間違いなく四郎の家族だろう。タイトルの不思議さとあいまって、強烈なインパクトを残すデビュー作だ。

■ストーリー

腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。

■感想
作者のデビュー作。まずはその文体に驚かされ、キャラクターの壊れっぷりも印象深い。物語的にはミステリーなのだが、正直どうでもいい。ミステリーがメインとして、このこじ付け的な暗号やトリックを楽しんでくださいと言われたら、途端に読む気をなくすかもしれない。ミステリーはただの理由付けにすぎない。読むべき部分は、四郎周辺に登場する強烈なキャラクターたちだ。強烈なインパクトを残す兄弟たちはもちろんのこと、人の心にしつこくこびりつくようなありえない名前と、なんでもありな行動。ぶっ飛んではいるが、それらを不快に感じないのは、作者の筆力なのだろう。

二郎にまつわるエピソードが強烈に印象に残っている。現実的にはありえないキャラなのかもしれないが、作者の文体と、全体の雰囲気が妙なリアルさと、人をひきつける魅力を放っている。二郎だけでなく、一郎や三郎にしても、四郎に負けず劣らずの個性を放ち、極めつけは信じられないような父親だ。これほど崩壊した家族なのに、なぜか楽しんで読むことができる。コメディではなくシリアス路線のはずだが、妙な楽しさがある。強烈な文体で、慣れるまでは違和感を覚えるが、読み慣れてくるとそのスピード感に圧倒されてしまう。

物語の構成や、ミステリーとしての面白さを吹き飛ばす力がある。キャラクターをここまで魅力的に描けるのはすばらしい。単純に好感の持てるキャラを書いて読者を引きつけるのではなく、信じられないような悪役や、常人では理解できない行動をとるキャラクターであっても、魅力的に描けるのはすばらしい。非日常的感覚を感じることができる作品なのは間違いない。後半にはトリックが明らかになり、ダレてきたシーンであっても、そこから怒涛の残酷描写が始まる。圧倒的な速さで物語が進んでいくと、残酷な場面であっても、すんなり受け入れてしまい、良い刺激だけを残している。

この文体に慣れるまでが大変だが、森博嗣などが好きな人には向いているかもしれない。




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