2010.12.14 物語のトーンに落差がある 【スクールアタック・シンドローム】
■ヒトコト感想
親子関係やソマリア問題など伝わってくるメッセージはある。深読みすれば深読みできる。特に「ソマリア~」は実在するソマリアが国として理不尽な扱いを受けていることを表現したいのだろうが、印象としてはそのまんま九十九十九だ。殺されたり生き返ったり。当たり前のように繰り広げられるぶっ飛んだ世界を許容できるかできないか、それが試されているようだ。表題作と「我が家のトトロ」はわかりやすい。親子関係や、人が生きるために重要なものが描かれている。ただ、相変わらずの語り口のため、心に染み入るかは読み方しだいだ。表題作のとんでもない親子は、父親の気持ちの不安定さがよくあらわれており、文体さえ変わっていれば、重松清風に思えなくもない。
■ストーリー
崇史は、俺が十五ん時の子供だ。今は別々に暮らしている。奴がノートに殺害計画を記していると聞いた俺は、崇史に会いに中学校を訪れた。恐るべき学校襲撃事件から始まった暴力の伝染―。ついにその波は、ここまでおし寄せてきたのだ(表題作)。混沌が支配する世界に捧げられた、書下ろし問題作「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を併録したダーク&ポップな作品集。
■感想
3つの短編が収録された本作。表題作は脳外科医になろうとする男が十五の時に生まれた子供との関係に悩む物語だ。ただ、悩むといっても大人の悩み方はみせていない。行き当たりばったり的で、到底大人とは思えないような行動をとったかと思うと、変に相手の気持ちを考えたり。めちゃくちゃな親子だと思うが、心のすれ違いと心が触れ合う場面がはっきりとわかる。親子には何が必要なのか。こんな親なら一緒に住めないと思う反面、ストレートな表現は面白いと感じてしまう。こんな親子はいやだと思いながら、楽しく読めてしまうから不思議だ。
「我が家のトトロ」がなんとなく一番心に残っている。売れない小説家や、娘や嫁がトトロを見る。架空の存在なのか、それとも実在するのか。今までの作者の作品と比べるとかなりほのぼのとしている。イジメや売れない小説の理由など、窮地に陥ったとき、人はどのようにしてそこから這い上がってくるのか。誰の中にもトトロがあるというのは思い当たるふしがある。もしかしたら、自分の中ではあることが、未来への生きる希望となっているのかもしれない。極端な話、トトロは生きる希望だと感じてしまった。
ラストの「ソマリア~」はいつもの作者に戻っている。バイオレンスで不可思議で、まるで世紀末のような世界だ。死んだはずの人物が生き返る。それが当たり前のような世界で、グロい描写やヘンタイも多数登場してくる。真っ先に思ったのは、ソマリアという国が他国から受けている理不尽な実情を表現しているのだろうということと、まんま「九十九十九」だということだ。ソマリアがいるとしたら、智春や徳永とはいったいどこの国のことなのか、という余計なことまで考えてしまう。舞城作品が大好きな人にはたまらない作品だろう。
短編としてのトーンの違いが大きいので、本作で舞城作品を読む人にとっては強烈すぎるだろう。
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