寂しい狩人 宮部みゆき


2009.5.26  古本屋店主が推理する 【寂しい狩人】

                     
■ヒトコト感想
本をきっかけとして起こる様々な事件。古本屋の店主であるイワさんが事件に関わり、謎を解いていく。ただの古本屋の店主のはずが、昔ながらの頑固親父を彷彿とさせるインパクトだ。田辺書店がどれほど繁盛しているのかということも気になるが、イワさんの家族関係が良好なのも本作のポイントなのだろう。起こる事件はほとんどが人間関係の問題に終始している。人間関係の歪みが本をきっかけとして明らかになる。ほのぼのとした作品もあればイライラするような作品もある。本を小道具としてこれほどいろいろな種類の事件が起きるのかと驚かされるだろう。特に一番印象に残っているのは表題にもなっている「寂しい狩人」だ。未完のミステリーを完成させるべく事件を模倣する。なんだか長編にすればもっと深く面白い作品になりそうだ。

■ストーリー

東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挾まれていた名刺。父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。

■感想
本がきっかけとなり様々な事件が起こる。ある日、手に取った本の中には名刺がしおり代わりに挟まれている。本の内容と名刺に書かれた名前を見てあれこれ想像する。本好きならば誰もが少しは考えるシチュエーションなのだろう。読む本によって、どのような印象をもつのか。本の内容にその人がどんな感想をもったのか。思いを共感したくなる。奇妙というよりは、人と人とのつながりを考えさせられる作品かもしれない。それ以外にも、小学生が万引きした本の内容から、その子の身に降りかかった災難を予想する。すべてが本になんらかのヒントが隠されている。

古本屋の店主であるイワさん。本作の中の短編では、どれを読んでも忙しい描写が書かれている。古書店の店主がそれほど忙しいのだろうか。まっさきに思い浮かんだのはBOOK OFF のような巨大な店舗ではなく、商店街にひっそりとたたずむ古ぼけた古書店のイメージだ。それが客で大忙しになるなんて到底想像できなかった。そんな忙しいイワさんは、家族との繋がりがあるから、事件を解決だきるのだと思えた。人間関係の歪みから起こった事件が多い本作。その中でも孫に慕われるイワさんだからこそ、解決できたものもある。イワさんと稔の関係も実は理想的な関係なのかもしれない。

ラストには表題にもなっている「寂しい狩人」がある。これは本作の中でもっとも印象に残る作品だ。未完のミステリーを模倣して、事件を起こす。未完だけにその結末は失踪した作者しか知らないはずだが…。この手のテーマは短編にしておくにはもったいないような気がした。未完のミステリーがどのようなトリックで事件を起こし、その結果どんな結末に至る予定だったのか。作家である作者本人の思いが語られているような場面もある。十年前というのが作家としては遥か昔というのも寂しいような気がした。現に、こうやって十年前の作品を読んでいる自分としては、十年前なんて全然まだまだ新しいと思えて仕方がなかった。

古本屋の店主といっても、京極堂とは大違いだ。



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