ローズガーデン 桐野夏生


2009.12.19  ミロシリーズは短編が良い 【ローズガーデン】

                     
■ヒトコト感想
過去のミロシリーズはそれほど面白いと思ったことはない。ミロの義父が主人公の作品は面白かったが、シリーズ本編はいまいちピンとこなかった。そんなミロが主人公となって描かれた短編集。長編よりも短編の方が向いているように思えた。ミロシリーズに登場する濃い登場人物たちも、短編であればそれほどクドく感じず、良い刺激になっている。これが長編となると、マニアックでアンダーグラウンドな世界をダラダラと読まされ、途中でダレてしまう。それぞれの短編が少しづつ雰囲気を変えており、幽霊話もあれば、SMやネオン街で働く女の話もある。中でも一番驚いたのは最初の短編だ。長編では名前だけ登場したミロの夫である博夫。博夫がこんな人物だとはまったく予想外だった。

■ストーリー

営業マンとしてジャカルタに赴任して二年。博夫はミロから逃げようとし、しかしむしろ深く填まり込んでいく自分を感じていた。すべては高校二年のあの日、庭に薔薇が咲き乱れる家のベッドでともに過ごした時から始まったのだ。そこは彼女が義父と淫らなゲームに興じた場所。濃密なミロの世界を描く短篇集。

■感想
長編での博夫のイメージはマジメに働くが面白みがなく、生真面目ゆえに自分を追い詰めて命を絶ったというイメージだった。本作ではいきなり博夫の高校時代とジャカルタ赴任時代が交互に描かれている。まさか博夫がこれほど活発で、高校時代にはどこかアウトローな雰囲気をだしているとは思わなかった。本編からのイメージではまったく想像できない部分だ。逆に言うと、先に本作を読んでいたとしたら、長編での博夫とミロに対してのイメージも変わっていただろう。本作の方が後にでただけに、後付の印象は拭い去れない。

その他の短編も、幽霊騒ぎであったり、SMものであったりとバラエティに富んでいる。ミロが探偵だということを認識させるのにも役に立っている。長編では探偵というよりも、一人の女というイメージの方が強かった。それ比べ、本作では探偵としての仕事という印象が強い。さらに言うなら、ダラダラとした長編よりも短編として探偵の使命に没頭するミロの方がすんなりと受け入れやすい。単純で深みがないと感じるかもしれないが、シンプル・イズ・ベストだ。ミロというキャラクターにあまり好感を持てていないだけに、この形の方が作品に入り込みやすい。

博夫と同じく村善のイメージも大きく変わった。村善というキャラクターは良かった。ミロシリーズの外伝として本編以上に面白い作品があり、本編であっても主人公のミロよりもキャラ立ちしていたような気がした。そんな村善も本作ではちょっと情けないというか卑屈というか、ひねくれて陰湿なイメージしかない。本編でのミロと村善との会話では、本作の短編のような関係はまったく想像できなかった。これも後付の印象が強いが、こうなってくると今後のミロシリーズは大きく変わるような気がした。

ミロシリーズは長編よりも短編の方が読みやすい。ただ、キャラ設定が若干ブレているのが気になる部分だ。



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