2009.2.6 スパイ物の傑作だ 【リヴィエラを撃て 上】
■ヒトコト感想
冒頭から序盤まで正直言うとわけがわからなかった。IRA、CIAにMI5それらが入り乱れ、カタカナ名前が頻繁に登場する。誰が誰で、何のためにどうしたいのかまったくわからなかった。しかし、そんな序盤の印象はすぐにひっくり返されることとなった。読み進めていくにつれ、登場人物たちの人間関係がしっかりとイメージでき、スパイとして行動していくジャック・モーガンや<伝書鳩>やその他のスパイたち。そのスケールの大きさと、緻密に計算されつくした世界。ジャックが追いかけるリヴィエラとは一体どんな男なのか。この上巻では明らかにならないが、その姿を見たものが殺される危険にがあるほどの人物とはどんな立場なのか。リヴィエラに対する興味と、スパイもの独特なひと時の安心感もない緊迫。全てが作品からあふれ出ている。
■ストーリー
1992年冬の東京。元IRAテロリスト、ジャック・モーガンが謎の死を遂げる。それが、全ての序曲だった―。彼を衝き動かし、東京まで導いた白髪の東洋人スパイ『リヴィエラ』とは何者なのか?その秘密を巡り、CIAが、MI5が、MI6が暗闘を繰り広げる!
■感想
ジャックがどのようにして凄腕のスパイとなっていったのか。そして、リヴィエラに関わるその他の関係者たち。リヴィエラという名前だけがどんどん一人歩きするように、その存在だけは大きくなる。リヴィエラの名前をだすだけで、危険視され、いつ殺されてもおかしくないような状況となる。誰が敵で誰が味方かわからないほど複雑に入り組んだ中で、ジャックを中心とした流れだけは、人道的であるような気がした。巨大な組織同士の馴れ合い。そして、それに板ばさみとなる男たち。なんだかスパイというよりも、政治色の強い作品のようにも思えてきた。
それぞれの男たちが所属する組織の大きさに比例して、仕掛けも大掛かりとなってくる。ひとりの人物を始末するために、大掛かりな仕掛けを作る。スパイものとして、相手がどこまで先読みしているのか。裏をかいたかと思えば、それすらも織り込み済みであったり。しびれるような諜報戦を思う存分楽しませてくれることは確実だろう。それでいて、人間的側面も見え隠れするジャック。スパイには珍しく感情的な動きをするので、物語はよりダイナミックに動いていく。
本作の肝であるリヴィエラがどのような人物なのか。まだ上巻ではあらわになってはいないが、特別なことは十分伝わってくる。序盤に登場した日本人と何か関係があるのだろうか。謎のベールに包まれたこのリヴィエラの正体と、その実力を知りたいがために、ページをめくる手を止めることができない。すでにリヴィエラ関係でジャックが死ぬことは冒頭に描かれているが、そこにいたるまでの経緯を知りたくてしかたがない。強烈な存在感と、誰もが知りたがるリヴィエラの正体。これがなんでもない政府の要人であったりすれば、とたんに下巻としての楽しさは半減するだろう。まぁ、そんな事は決してないと思うが…。
スパイものとして、これほど複雑なのにすっきりと読むことができるのは、作者の構成がすばらしいからだろう。
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