リヴィエラを撃て 下 高村薫


2009.2.11  間違いなく作者の最高傑作だ 【リヴィエラを撃て 下】

                     
■ヒトコト感想
まるで007シリーズを見ているような気分にさせる本作。リヴィエラを追いかけながら、その過程で次々と脱落していく関係者たち。どんなに主導権を握いると思われた人物であっても、あっさりと舞台から消えていく複雑な現実。国益という名がつけばどんなことでも許されるように、謀略が繰り広げられる。CIA,MI5,RIA。さまざまな組織が捜し求め、そして守ろうとしたリヴィエラとは一体どんな人物なのだろうか。その結末は本作で明らかとなるのだが…。非常に驚きの結末だった。頭の中に描かれたリヴィエラとは正反対と言ってもいいだろう。しかし、それは落胆を含んだ裏切りではなく、驚きとともに、心地よい読後感を運んでくれる。間違いなく作者の作品の中ではナンバーワンだと思う。

■ストーリー

CIAの『伝書鳩』とともに、父の仇である『リヴィエラ』を追っていたジャック。複雑怪奇な諜報機関の合従連衡。二重・三重スパイの暗躍。躍らされる者たち。味方は、敵は誰か。亡命中国人が持ち出した重要書類とは?ジャック亡き後、全ての鍵を握るピアニストは、万感の思いと、ある意図を込めて演奏会を開く。運命の糸に操られるかのように、人々は東京に集結する。そして…。

■感想
複雑に絡み合う組織間の利害関係。それはすべて国益がもとになっているが、同じ国内であっても、組織によっては守るべきものが変わってくる。その結果、いつの間にか敵対関係にある場合も…。誰が敵で誰が味方なのか。ついさっきまで全てを牛耳っていたような人物が、次のページでは殺されている。全ての実権を握っているものは存在せず、誰が消されるかわからない。リヴィエラに関する情報は全てタブーで、誰が裏であやつっているのかもわからない。もしかしたら現実の世界も同じように、一つの組織が全てを牛耳るなんてことがないのかもしれない。

MI5だろうがCIAだろうが、手を出せないものには手をだせない。強烈なインパクトを残したMGであってもどうなるのかわからない。全ては国益を守るため。では、一体国益とは何なのか。本作ではその本質は明らかにされないが、複雑さをそれだけで説明放棄しているようにも感じてしまった。リヴィエラという名前だけが一人歩きし、そんな怪物をめぐる思惑。リヴィエラの正体が暴かれ、リヴィエラの考えやすべての秘密が明らかになったときには、なんだか少し拍子抜けしてしまった。しかし、それは、イメージを逆手にとるすばらしい裏切り方だと思った。リヴィエラが天下無敵に権力を持っていたり、強烈な殺し屋でなくてよかった。

さまざまな男たちが最後まで追い求めたリヴィエラ。この壮大な物語は、上質なスパイ映画を長時間見せられているように、ひと時も油断できない。どんなに力を持った人物であっても、次の瞬間どうなっているのかわからない。リヴィエラをめぐり、ほとんどの主要人物が舞台から退場したように、タブーにふれようとしてはならないのだろう。最後まで疑問に思ったのは、なぜリヴィエラは最後まで消されることがなかったのか?蓋を開けてみれば、ただの人であるリヴィエラを最後まで守る意味がどこにあるのか。くさい物には蓋をしろ的な思考にはいかず、最後まで国益としてリヴィエラは守られている。

なんだか現実の世界でも、本作のように複雑に絡みすぎて、バランスがとれているだけ。一人がバランスを崩そう(リヴィエラの秘密を暴こう)とすれば、たちまち崩れるもろい積み木なのかもしれない。



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