螺鈿迷宮 下 海堂尊


2009.6.20  医療現場の問題点 【螺鈿迷宮 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻ではミステリーというよりも、医療現場の問題点を鋭く突きながら、その解決策までも提示したような形になっていた。下巻では、そんな画期的なアイデアがどのような犠牲の上に成り立っているのかということと、それだけではなく、桜宮病院に隠された大きな秘密が明らかとなる。薔薇の印が届くと一晩のうちに死がおとずれる。病院内に隠された秘密。病院だからこそできる、隠された犯罪行為。人の死とはどういったものなのか。死後解剖に費用をかけようとしない国のやり方に対抗するために、でてきたある意味、必要悪なのかもしれない。ミステリー的要素よりも、現代の医療の問題点を声高に叫んでいるような気がした。まったく医学的知識がない人間が読んでも、その問題点はおぼろげながらにわかりかけてくる。

■ストーリー

医学生・天馬大吉が潜入した不審死の続く桜宮病院に、奇妙な皮膚科の医者がやって来た。その名も白鳥。彼こそ、“氷姫”こと姫宮と共に病院の闇を暴くべく厚生労働省から送り込まれた“刺客”だった。だが、院長の桜宮巌雄とその双子の娘姉妹は、白鳥さえ予測のつかない罠を仕掛けていた…。終末医療の先端施設に隠された光と影。果たして、天馬と白鳥がそこで見たものとは?

■感想
桜宮病院ではなぜ頻繁に人が亡くなるのか。そして、終末医療と、末期患者を両立させるという一見画期的な方式に問題はないのか。上巻でもある程度語られていた問題の解決策は提示されていない。それら全ての問題は、根本をつきつめると、金がないということに繋がっていく。金があれば終末医療にも金を掛けられ、死後の解剖をおこなうこともできる。その金を手に入れるために、桜宮病院でおこなわれていた陰の仕事。それはよくあるパターンなのかもしれない。しかし、舞台が病院ということだけで、公になることがなく、ひっそりと人々は死ぬことができる。

本作を読んですぐに思ったのは、病院自体が病院ぐるみで犯罪行為をおこなおうとしたら、まったく外部に露見することなく、完全犯罪をやり遂げることができるのではないかということだ。すべては医者の倫理観にかかっているのかもしれない。外部の監査組織がどの程度働くのか。本作のような危険な潜入捜査をおこなった結果、事件の真相が明らかになったが、もっと目立たずにやれば、完全犯罪も可能だったのではないだろうか。ミステリーとしてのトリックや大きな仕掛けはない。謎の病院の全容が明らかになれば、すべてがはっきりするだけだった。

チームバチスタのキャラクターが登場した時点で、何か大きな事件の香りを感じたが、思ったほどではなかった。医療現場での問題点がメインであり、それを無理矢理ミステリーとして物語化しているようにも感じらえれた。もしかしたら本作の主役である天馬は、また別の作品に登場するかもしれない。姫宮の強烈な存在感と、その能力の理由は、はっきりしたのだが、天馬はまだ未知数だ。そして、恐らく本作は映像化されないだろう。何せ、真剣に映像化しようとしたら生々しい解剖シーンや、臓器のシーンをしっかりと描かないと意味がないからだ。それはさすがに難しいのだろう。

シリーズとして、ミステリーよりも、問題提起したような作品だ。



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